07 ダンジョンへ
ノースフォリア近隣の森にて連携を確認し、ミストのレベリングを行ったシクロ達。
そして翌日。一行は――最悪のダンジョン、ディープホールへと訪れていた。
「――そんじゃあ、今日の予定の確認だ」
ディープホールへの入り口を前にして、シクロはミストとカリムに向けて語る。
「ディープホールの、本当に浅い階層で、このダンジョンの雰囲気をミストにも知ってもらう。その上で、洞窟みたいな狭い限られた空間での連携の練習と、昨日と同じレベリングだ」
「はい、今日もがんばりますっ!」
ミストはぐっと拳を作って意気込む。
「まあ、今のミストちゃんやったら最初のボスがおる階層まで挑んでええやろうけどな。そこのボス、キラーベアと同格の魔物やし」
カリムはそう言いながらも、続けて真逆のことを言う。
「それでも浅い階層で、用心した上で経験積んでからの方がええのは確かや。ウチも後ろからシクロはんに撃ち抜かれたくないしな?」
言って、カリムはシクロの方を見る。
「ボクはそんなヘマはしないぞ」
「あはは、冗談や冗談っ! シクロはんがそんなヘマせんように気を付けとるのは分かっとるって!」
バシバシ、とシクロの肩を叩きながら、笑って言うカリム。
そんなカリムに不満げな表情を向けてから、シクロは改めてディープホールの入り口に向き直る。
「それじゃあ――行くぞ!」
「はいっ!」
「あいよ!」
こうして、三人では初のダンジョン探索が開始する。
ディープホール、通称『最悪のダンジョン』。
そのような通称が付いた理由は――ダンジョンの難易度の他に、出現する魔物の種類にも由来する。
「ディープホールの第一階層は、主にスケルトンが出てくる階層や」
カリムが出現する魔物について解説しながら、先頭に立ってダンジョンを進んでゆく。
「他にも吸血コウモリなんかも出現することがあるな。――そんで少し深くに潜ったら、ゴブリンの変異種、ブラックゴブリンが出るようになる」
語りながら、嫌そうな表情を浮かべるカリム。
「ここに出るブラックゴブリンは特殊でなぁ。どいつもこいつも、必ず首刈り鎌を持って出てくんねん。そんで、冒険者の首を執拗に狙ってくる」
「そ、それは怖いですね……」
カリムの言葉からミストは光景を想像してしまい、顔を青くする。
「他にも、このダンジョンは深く潜る程に悪趣味な性質の魔物がぎょーさん出てくるようになるんや。それで『最悪のダンジョン』なんて呼ばれるようになったっちゅうわけよ」
最悪のダンジョンという異名の由来を語りながら、カリムは剣を構える。
「来よったで」
カリムが言って、すこし後のタイミングで、洞窟の曲がり角の先からスケルトンが姿を表す。
その数は三体。この程度の群れで出現することは、ダンジョンでは珍しいことではない。
「――ウチが足を止めるから、ミストちゃんトドメ頼むわ!」
言うが早く、カリムは瞬時に前へと出る。
「シッ!!」
そして剣を振るい、まず先頭に立っていたスケルトンの足を切り落とす。
片足では到底バランスを取れるはずもなく、一瞬で崩れ落ちる。
そのままカリムは奥の二体のうち、片方に迫る。
それを確認して――シクロは残るもう一体のスケルトンに、ミストルテインで射撃を放つ。
バァンッ、という銃声と同時に、弾丸がスケルトンの膝に直撃し、骨を砕く。
「――ナイス、シクロはんっ!」
シクロの援護射撃を褒めながら、カリムは余裕のある様子でスケルトンの足を切り落とす。
こうして三体のスケルトンが一瞬にして無力化。
それと同時に、ミストの魔法の準備が調う。
「撃ちますッ!」
ミストの一言を聞いて、すぐにカリムは射線を開けつつ下がる。
「ホーリーバースト!」
ミストが放った魔法は――光の玉の形状をしていて、投擲した程度の速度でスケルトンへと飛来する。
そしてスケルトンへと直撃すると同時に玉が弾け、光の衝撃波が生み出される。
光の衝撃波は三体のスケルトンを巻き込み、ダメージを与える。
カタカタカタ、と断末魔の代わりに身体を震わせ音を鳴らすスケルトン。
そうして光が収まった頃には、単なる骨と化していた。
「おっし、問題なく討伐完了やな!」
カリムがそう言って、笑顔でシクロとミストの方へと戻ってくる。
「――いや。まだだな」
「ん? まだなんかおるんか?」
「そこを曲がった先だ。スケルトンがかなりの数で群れているぞ」
シクロは戻ってきたカリムに、時計感知の効果で判明した事実を伝える。
「そうか。どんぐらいの群れか分かるか?」
「二十ぐらいは間違いなくいるな」
「……それやとミストちゃんの練習にはちょっと使いづらいな」
言って、カリムは苦い表情を浮かべる。
「――まあ、今回はボクに任せてくれ」
シクロは言うと、一人で前に出て、曲がり角へと近づいてゆく。
「なになに? どうするつもりやシクロはん?」
「連携の確認なら、ボクの手札も事前に確認しておくべきだろ?」
言うと――シクロは手を差し出し、その掌の上に『時計生成』であるものを生み出す。
見た目は、単なる懐中時計にしか見えないその魔道具を、シクロは二人に見せる。
「……なんやそれ? 普通の時計か?」
「でも、針が動いてませんね」
「まあな。時計じゃないものを作るにしても、時計に近ければ近いほど作るのが速いからな。こうして時計と似た仕組みを組み込んでおけば、コンマ一秒もあれば生成出来る」
言うと、シクロは懐中時計型の魔道具の、十二時の方向に付いているリングに指を通し、力強く引き抜く。
すると、リングは何らかのピンであったらしく、時計から抜けると同時に、針が進み始める。
「このピンが安全装置兼、起爆装置になってるんだ。こうしてピンを抜けば時計の針が進んで――」
言いながら、シクロは懐中時計を投擲し――曲がり角の奥へと放り込む。
そうして数秒を数えた後。
ドォンッ!! という轟音と共に、爆風が撒き起こる。
突然の爆発に、ミストとカリムは驚き、身体をビクリと跳ね上げる。
そんな二人を尻目に見ながら、シクロは得意げに解説を続ける。
「――この通り。ゼロになると同時に、爆発するって寸法だ」
言って、シクロは二人の方へと向き直る。
「ん? どうした二人とも」
「……シクロはん」
呆れたような表情で、ジトリとシクロを睨みながらカリムは言い放つ。
「それは使用禁止ッ! 少なくともウチが前に出とる時は何があっても使うなッ!!」
「なっ! なんでだよ! せっかく頑張って設計したんだぞ! 時計型手榴弾っ!!」
「そんなん危ないからに決まっとるやろ! あんなもんいきなり後ろから投げられたら対処できへんわ!」
「……くそ。自信作だったのに」
シクロはカリムの抗議に、不満げな表情を見せる。
「あはは……でもご主人さま。威力はすごかったと思います!」
ミストはフォローしているが、それでも今回の魔道具を戦闘中に使うのには賛成していなかった。
その後――結局、時計型手榴弾の使用問題については、状況に応じて許可を取ってから使うこと、という約束を交わすことで、どうにか落ち着く。
それ以外には、特にトラブルも無く、三人は順調にダンジョンを進む。
そうして――予定していた目標到達地点である、第二階層へと足を踏み入れた。