表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/200

04 断罪




 日も沈む頃合いになって、王城にて。


 勇者――レイヴンは、国王陛下から登城するよう言われ、王宮へと訪れていた。

 また、その際は聖女も連れてくるように、とのお達しがあった為、マリアも同伴してのことである。


「――全く……国王陛下の急な気まぐれにも困ったもんだよ」

「……そうですね」


 レイヴンの言葉に、まるで人形のように表情を変えず、マリアはただ頷く。


 しばらく待たされた後、レイヴンとマリアの二人は王座の間へと案内される。


「クロウハート公爵家嫡男、勇者レイヴン、只今参上いたしました」

「……」


 レイヴンが名乗ると、本来であれば王座の間へ続く扉を守る騎士が礼を返し、扉を開くはずだった。


 だが――何故かこの日は、騎士が全く反応も見せずに扉を開く。


(……なんだ? ムカつくヤツだな)


 無表情――というよりも、何かしらの感情を抑え込んだかのような目を見て、レイヴンは苛立ちを覚えた。


 謁見の間に入ると、まず国王陛下の前でレイヴンとマリアは跪く。


「――よく来たな、勇者レイヴン。聖女マリアよ」


 普通なら、ここで頭を上げるように国王陛下が二人に告げるはずである。

 だが――今回は、二人に何も言わず、勝手に話が続けられる。


「時に――私の祖母の話なのだがね。遠くから我が国へと嫁いで来てくれた祖母は、祖国からの祝の品として、それは立派な機械式の時計を贈られたのだが」


 突如始まった国王陛下の話の意味が分からず、レイヴンは内心困惑する。

 一方で、マリアは一切の感情を殺したまま、静かに話を聞いていた。


「近頃あまり調子が良くないということで、職人ギルドの方へ修理と点検、整備の依頼をしていたそうだ。派遣されたのは中々に優秀な職人であったようでね。祖母も満足していたよ」


 職人ギルド、という言葉に、マリアだけが反応した。

 レイヴンは未だにわけが分からず、ただ国王陛下の言葉を聞くだけしか出来なかった。


「だが――最近になって、急に担当者が変わったのだよ。その者が杜撰な仕事をしたせいで、祖母が大切にしていた時計が壊れてしまった。そこで、職人ギルドとの契約を解除。件の優秀な職人を直接呼ぼうとしたのだがね」


 国王陛下の視線が鋭くなり、レイヴンを貫く。


「名はシクロ=オーウェン。どうやら職人ギルドから解雇されていたらしい彼を呼ぶ為に調査をした結果――なんと、解雇当日に連続強姦事件の犯人として捕まったそうじゃないか」


 その言葉を聞いて、ようやく気付いたレイヴンがハッとして顔を上げてしまう。


「そうだ勇者レイヴンよ。お主と聖女マリア、そして一部の人間の証言のみで有罪判決が下った平民の青年だ」

「そっ、それは……陛下っ!」

「黙れ。誰が顔を上げて良いと言った?」


 国王陛下の威圧するような声に圧され、レイヴンは悔しげな表情を浮かべながら再び頭を下げる。


「我が国はスキル選定教との関係を悪化させるわけにはいかぬ。理由はわかるな? ――魔王の治める隣国、ルストガルド帝国との戦争において、スキル選定教から与えられるスキルの力が非常に有用だからだ」


 国王陛下は、まるで子どもに諭すかのように――つまりレイヴンを、それだけの愚か者であると言外に伝えながら語る。


「故に奴らの指定する特別なスキル持ち――つまり勇者や聖女といった存在を、無下にするわけにはいかぬ。これまでお主が行ってきた火遊びも、平民が相手であればわざわざ罪に問うわけが無い。それがどれだけ、悪逆非道の行いであろうともな」


 つまり、レイヴンの行ってきた悪事は、少なくともある程度は国に把握されていた、ということ。

 国王陛下に知られていたと分かり、途端に冷や汗を流しだすレイヴン。


「しかし、今回は話が変わる。お主が排除した青年は、祖母が重用するはずだった職人なのだ。――つまり、弓を引いた先にあったのは、間接的ながらも王室、王族の血であったのだよ。分かるか?」


 問われても、レイヴンは顔を上げられない。国王陛下の言葉から、口調から、怒りと侮蔑の感情がありありと読み取れたからだ。


「こうなれば、最早無視は出来ぬ。『レイヴン』よ。お主の悪行は、祖母の行った調査から芋づる式に日の下に晒される『ことになる』のだ」

「……っ! ですが国王陛下ッ!! 私は、そのような行いに身に覚えがありませんッ!!」


 このままではマズイ。そう思ったレイヴンは、取ってつけたような言い訳を始める。


「黙れ、レイヴン。証拠は揃っておる。特に、シクロ=オーウェンを貶めた件に関しては、しっかりとな」


 国王陛下はそう言って、護衛の近衛騎士たちへと目配せをする。


 すると――近衛騎士の一人が反応し、謁見の間から出てゆく。


「良い機会だ。レイヴン。貴様にもし『勇者』という肩書が無ければ、どうなっていたかを教えてやろう」

「は……。えっ?」


 国王陛下の言葉の意味が分からないレイヴン。

 だが意味を問うよりも先に、謁見の間へと近衛騎士が戻ってくる。


 そして――近衛騎士は、一人の男をこの場へと引きずり連れて来た。

 身動きを取ることすら出来ない程に、全身を痛めつけられたその男は――王都の警吏の制服を着用していた。


「この男――ブジン=ボージャックこそが、件のシクロ=オーウェン冤罪事件、及び連続強姦事件、失踪、誘拐事件、諸々の『真犯人』だ。レイヴンよ……こんな男に見覚えなど『あるはずが無い』だろう?」

「あ……ありま……せん……っ!!」


 国王陛下の言葉に、レイヴンは顔を真っ青にして答える。

 つまり――国王陛下は、レイヴンの罪も『表向きは』この男、ブジンに被せて処分しようというのだ。


「こやつは罪状と共に三日三晩の磔の刑の後、斬首、そして晒し首の刑に処す。罪の重さを鑑みれば、当然の処断であろう?」

「は、はい……」


 脅すような国王陛下の言葉に、すっかりレイヴンは意気消沈していた。

 なぜならレイヴンも、国王陛下がそのつもりであれば、ブジンと同様の刑に処される可能性があるからだ。

 ブジンという、自分の表向きの罪のデコイを見せつけられ、それをはっきりと理解したレイヴン。


 だが、国王陛下の話はこれで終わりではない。


「レイヴン。貴様の処断については、表向き『勇者』に相応しいものとなっておる。教会とも既に話はついておるのでな。抵抗は出来ないものと思えよ。無論、抵抗した場合は――分かっておるだろうがね」


 レイヴンは、何度も首を縦に振り、国王陛下の言葉を肯定する。

 少なくとも――ブジンのような、惨めで苦しい死に方をするよりはよほどマシだと考えて。


 そんなレイヴンの、ある意味希望とも言える考えを打ち砕くように、国王陛下は告げる。


「では――『勇者レイヴン』よ。お主には王命を下す。我が国の宿敵、魔王率いるルストガルド帝国との戦争、その最前線にて戦果を上げよ。なお、現場での指示は、最前線にて我が国の軍と協力関係にある、冒険者ギルド側に預けるものとする」


 それは――レイヴンにとって、絶望的な言葉であった。


 なぜなら、レイヴンは勇者であるが故に、冒険者ギルドにも登録しており、そのランクはSランクとなっている。

 だが――それは勇者という特別な存在であるからこそのランクであり、実際のレイヴンの能力はAランク冒険者と同等か、経験の少なさ故に若干劣る程度である。


 日頃から、名声を得ることだけ考え、手に負える程度の魔物を、公爵家の私兵も使って弱らせた後に討伐してきただけのレイヴンである。

 戦争の最前線の冒険者ギルドで、味方もなく、Sランク相当の実力があるものとして扱われるとすれば――その末路は、想像に難くない。


「こっ、国王陛下ッ!! どうか、どうかそれだけはッ!!」

「連れてゆけ」


 国王陛下の言葉を受け――近衛騎士が動き、土下座して陳情するレイヴンを無理やり引きずり、謁見の間から連れ出す。


 そうしてレイヴンが連れ出された一方――聖女マリアは、謁見の間に残された。


「さて、聖女マリアよ。次はお主への沙汰だが。――冤罪事件の証言者として関わった事実は消せぬ。しかも――お主は、真実を知りながら、今まで黙っておった。その罪は、償わねばならぬ」

「……はい」


 頭を下げたまま、マリアは国王陛下に同意した。

 むしろ――マリアは、自らを罰してくれる何かを求めていた。

 だからこそ、国王陛下の言葉はある意味で渡りに船であった。


「よってお主には――遠く、竜の秘境付近に存在する修道院にて、聖女としての務めを果たしてもらおう。罪を償い終えるまで、戻ることは叶わぬ」

「……分かりました」


 国王陛下の下した判断は――言わば、終身刑のようなものであった。

 国の情勢次第では呼び戻される可能性があるものの、贅沢も、娯楽も一切存在しない修道院での修行と、祈りの日々が課せられたのだ。


 しかも――場所が竜の秘境。スキル選定教の運営する修道院の中でも、最も危険地帯に近い位置に建てられたものだ。

 当然、何らかの事故、災害に巻き込まれ、命を落とすリスクも高い。


 レイヴンほどの危険と酷使は無いものの、十分に重い罰であった。

 それだけ――シクロを冤罪で裁いたというのは、王家の面に泥を塗るような行いだったのだ。


 こうして――勇者レイヴンと聖女マリアの二人は、冤罪事件という形で間接的に王家と対立した罪を裁かれることとなったのであった。

最新話のストックが……残り少なくてやばいです!


でも、あと少しで目標のなろう月間ランキング総合トップ10入りが果たせそうなので、もう少し毎日投稿を頑張っていきます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
(ネタバレ) 「……神」にとっての「聖女」だから、推してしるべし。 悲しいけれども……。
国王はあくまで貴族としての失態を罰したのであって平民はどうでも良いって思ってるからね それにしても漫画でこの場面を見て改めて思ったけど、聖女は単なるドMだよね、今回の罰もご褒美にしか思ってない
 ばあちゃんに折檻されろ愚王。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ