13 聖女よりもよほど聖女
気を取り直し、シクロはミストに次のスキルを確認するよう言う。
「再生魔法のことはともかく。今はスキルの確認を先に済ませよう。ミスト、スキルはこれで全部か?」
「いえ――あと2つあります」
やっぱりか、とシクロは思う。
聖女でさえ、使えるスキルの数は4つ。それに対して、ミストは5つ。そして、現時点でどのスキルも聖女に匹敵するか、それ以上の効果を持っている。
これのどこが『邪教徒』なんだ――と思うものの、今はそこをどうこう言っている時ではない。
「じゃあ、4つ目のスキルを確かめようか」
「はい、ご主人さま」
そうして、ミストは次のスキルに魔力を込める。
すると――途端に神々しい光がミストを中心にして広がり、部屋一面が輝き始める。
「うわっ!? なんだこれは!?」
「あの、ご主人さますみませんっ! スキルに魔力を流し込んだ途端に発動してしまいました」
となると、それはアクティブスキルだな、とシクロは気づく。
「ミスト。そういう魔力を流し込んだ途端に発動するスキルをアクティブスキルって言うんだ。ものによって効果は違うけど、今回みたいに即座に魔法みたいな効果を発揮する場合もある」
そして、アクティブスキルに対して、一度発動させると常時発動し続けるスキルをパッシブスキルと呼ぶ。
アクティブスキルは効果が終了すると自動的にスキルの発動も終了するが、パッシブスキルは一度発動すると意図的に効果を切るまで常時発動し続ける。
魔法適性系のスキルも、このパッシブスキルに該当する。一度発動すると、効果を切るまで常に適性に該当する魔法が使える状態であり続ける、というのが魔法適性系のスキルの効果だからだ。
「す、すみませんでした……」
しゅん、と反省した様子でうなだれるミスト。
シクロは慌ててフォローに入る。
「気にするな、ミスト! 何があってもボクならフォローできると思ってたからスキルを発動させたんだ。それに、このスキルは攻撃的な効果があるようなスキルには思えない」
「……はい。効果なら、何となく分かります。私と、ご主人さまの能力を上昇させている感覚があります。逆に、それ以外の人の能力は下がりそうな感覚もしています」
ミストが言うことで、シクロはようやく効果に察しがつく。
「なるほど……恐らくは味方へのバフと、敵へのデバフを同時に展開するスキルか」
とんでもないスキルだな、とシクロは思う。
聖女の場合は、悪しき者にのみダメージを与えると言われている『ジャッジメント』と呼ばれるスキルがあると言われている。
それに対して――ミストのこのスキルの方が、戦闘への貢献度という意味では大きいように感じられる。
また、聖女よりも優れたスキルだ、とシクロは思った。
「とりあえず、ミストのこのスキルは『サンクチュアリ』と呼ぶことにしよう。魔力の消費はどれぐらいだ?」
「えっと……思ったよりも消耗しました。魔法を使った時よりもずっとたくさんです」
「なら、サンクチュアリは切り札として使っていくことにするか」
「切り札、ですか」
ひとまず、4つ目のスキル、サンクチュアリについてはこれで把握できた。
「じゃあ、最後のスキルを確認しよう」
「はいっ!」
こうして、ようやく5つ目のスキルに魔力を流し込むこととなる。
「――これは、なんでしょうか? 身体が、軽い感じがします」
「ってことは、身体強化系のスキルかな。それか、武器の適性系スキルの可能性もある」
身体強化系スキルはアクティブであり、武器適性系スキルはパッシブである。
「様子を見て、効果が切れて身体が重くなるようなことが無ければ多分武器適性系のスキルだ」
「分かりました」
その後、三十分ほど経過してもミストの身体が重くなるようなことは無かった。
このことから、シクロは最後のスキルは何らかの武器適性系スキルだと判断する。
「よし。それじゃあ明日は、まず武器屋から見に行こう。ミストの適性に合った武器を探すんだ」
「はいっ。ありがとうございます、ご主人さま」
シクロに武器を買い与えてもらえることが嬉しいのか、ミストはニコニコと笑顔を浮かべて頷く。
そんなミストの様子を見て、シクロは思う。
(まったく。――なにが邪教徒だよ。ミストの方が、本物の聖女よりもよっぽど聖女じゃないか)
そんなことを考えて――シクロはミストのことをそっと抱き寄せ、頭を撫でるのだった。