12 邪教徒とは?
エリアヒールが使えることが分かり、シクロは興奮した様子でミストに語る。
「まず、神聖魔法の適性を持つ人自体が希少なんだ。だから、そういった人はだいたいが教会に連れて行かれる。そして、使える人でも最初はヒールが使えれば良い方だ。それなのに、ミストは最初っからエリアヒールが使える。これは、めちゃくちゃすごいことなんだぞ!?」
「は、はい。わかりましたご主人さま。だから、強く抱き締めすぎるのはおやめ下さいっ!」
言われて、ようやくシクロは興奮のあまりやりすぎていたことに気づき、ミストから離れる。
「あー、ごほん。というわけで。ミストは、ものすごい才能を持ってるってことになる」
「そうなんですか? だとしたら、嬉しいです。ご主人さまのお役に立てそうですから」
ミストの屈託のない笑みと言葉に、シクロは照れてしまう。
「あー、ありがとう。それじゃあ次のスキルを確かめてくれ」
頬を掻きながら、次を促すシクロ。
「分かりました。次、いきます」
そうして、ミストは次のスキルに魔力を流し込み発動する。
「……えっと、次も魔法スキルのようです。攻撃魔法がほとんどです。一つは攻撃魔法じゃないみたいですが」
「そうか。じゃあ、その攻撃魔法じゃないやつを発動してくれるか?」
「はいっ!」
言われた通り、ミストは次の魔法を発動する。
すると――ミストを中心として、球状の範囲を覆うように光の壁が発生する。
「えっと、ご主人さま、これは?」
「これは……もしかして、バリアー!?」
また驚きのあまり声を上げるシクロ。
「ってことは光魔法の適性があって、しかも最初から中級レベルの魔法が使えてることになるぞ!! すごい、すごいぞミスト!」
「は、はいっ!」
興奮するシクロに、ミストは少しだけ引き気味になりながら頷く。
「ミストにもわかりやすく説明すると、光魔法っていうのは攻撃魔法中心の魔法適性だ。神聖魔法が補助と治癒に特化した魔法なのに対して、光魔法が攻撃と少しのデバフ、それに防御って感じかな」
「そうなんですね。じゃあ、私は攻撃も防御も補助も、全部魔法で出来るということですか?」
「そうなるな。正に、聖女のごとしって感じだよ」
シクロは嬉しそうに語る。
そんなシクロを見て、ミストは疑問に思ったことを口にする。
「あの……ご主人さまは、スキルのことに随分お詳しいんですね」
その質問があった途端、シクロは固まる。
そして、暗く悲しげな声で答える。
「……ああ。昔、婚約者だった人が、そっち系の職業スキル持ちだったからな。それで覚えたんだよ」
「……そう、だったんですか」
シクロの様子から、触れてはいけない話題だったのだと、ミストは悟る。
そこで、話題を変えるためにミストから率先して話を切り出す。
「――ではっ! 次は3つ目のスキルですねっ!」
「……ああ、そうだな。次もすごいスキルだったりするんだろうな!」
ミストの調子に合わせて、シクロも慌てて暗い雰囲気を払拭するように声を上げる。
「では、いきます!」
ミストは、早速3つ目のスキルに魔力を流し込む。
「これは――えっと、また魔法? みたいです。でも、多分この魔法スキルは、一種類しか使えそうにありません」
「そっか。試しに使ってみてくれる?」
「はい」
ミストは言われた通り、魔法を発動する。
「――あの、なんと言えばいいのか分からないんですが。色々と『直せそう』です」
「直せそう?」
ミストの言葉に、シクロは首を傾げる。
「はい。例えば、あちらの花瓶に添えられた花を、もっと元気に出来ます。ソファの革が少し傷ついていますが、それも直せます。後は――ご主人さまの髪も、なぜか直せそうな感じがします」
「ボクの髪まで?」
そこまで聞いて、シクロは考え込む。
「……いや。まさか、そんなことがありえるのか?」
「ご主人さま?」
「……でも、そうだな。うん。ミスト、その魔法だけど、ボクは心当たりがある」
シクロは半信半疑、といった様子で語る。
「その魔法の名前は『再生魔法』。治癒魔法ですら治せない、ありとあらゆるものを再生する可能性を持った、伝説の魔法だよ。――それこそ、聖女ですら持っていない。歴史上の偉人と呼ばれるような人が持っていたとされるスキルだ」
そこまで説明されて、ようやくミストも驚きを見せる。
「そんなすごい力が――私に?」
「そうだよ、ミスト。君には、聖女すら超える才能がある」
そう語りながら、シクロは疑問に思う。
どうして――ここまで光に寄った適性を持った職業が『邪教徒』なのか?
というか、そもそも邪教徒とは何なのか?
そして――そもそも、本当にミストは『邪教徒』なのか?
これが――シクロが教会のスキル選定の儀に対して、初めて疑念を抱いた瞬間であった。