11 職業スキル
命令を終えたところで、シクロは次の用件に移る。
「――じゃあ、次は『職業スキル』を把握しよう」
「スキル、ですか?」
シクロの言葉に、ミストは首を傾げる。
これに、シクロは具体的な説明を続ける。
「スキルっていうのは、どんなものも魔力で発動する。逆を言えば、魔力を扱えば自分の中にある力を発動できるって意味にもなる。――職業スキルの場合は、複数のスキルが組み合わさっているからな。魔力を使ってスキルを発動することで、効果を把握していく必要があるんだ」
「なるほど。そうだったんですね」
初めて知った、という様子でミストは頷く。
シクロの語った内容も――本来なら、職業スキルを持つ者であれば、誰かから教えられて自然と学ぶ常識のようなものだ。
しかし、ミストはそんなことすら教えて貰っていなかった。
それに対して悔しさのようなものを感じながらも、シクロは話を続ける。
「というわけで、早速ミストにはスキルを発動してもらおうと思う」
「えっ? ですがご主人さま、私は魔力の使い方なんて――」
「大丈夫。ボクが教えるから、安心してくれ」
言って、シクロはミストの手を握る。
「まずは、ボクが君の手を通じて魔力を流す。その違和感を感じ取ることで、魔力というものを把握するんだ」
「わかり、ました」
ミストは戸惑いながらも、頷いて意を決する。
「それじゃあ、いくよ」
シクロは言って――ミストの手に向かって、魔力を送る。
「――んくっ!?」
シクロとしてはかなり少なめに魔力を流したつもりだったのだが、それでも元の量が多すぎた。
そのため、ミストの感じた違和感は大きく、つい声を漏らしてしまう結果となった。
「ミスト!? 大丈夫か?」
「はい、少し驚いてしまっただけです」
ミストは頬を紅潮させながら答える。
そのまま、数分ほどシクロは魔力を流し続ける。
やがて、魔力の流れる感覚をしっかりと把握したミストが口を開く。
「ご主人さま。たぶん、もう覚えました」
「そうか。それじゃあ、次の段階だ」
言って、シクロはミストから手を離す。
少しばかり名残惜しそうな視線を向けるミストだったが、これに気付かずシクロは話を進める。
「次は、さっきの違和感と同じようなものが自分の中に無いか、集中して探してみてくれ。見つかったら、それが魔力だ」
「分かりました」
ミストは瞑想して、そのまま集中する。
今度は更に長く、十数分ほどの時間が掛かった。
が、それでもミストはしっかりと魔力を発見したのか、目を開いて言う。
「見つけました、ご主人さま」
「よくやったな、ミスト! 早いじゃないか!」
シクロは言って、ミストの頭を撫でて褒める。
小さな子ども扱いをされているようで、ミストは照れてしまう。
「あの、ご主人さまっ! 恥ずかしいですっ!」
「ああ、ごめんごめん。ミストって小さいから、つい」
「……別に、いいですっ」
いじけるように言うミスト。だが、本気で怒っているわけではないとシクロも分かっており、苦笑いを浮かべてから話を進める。
「それじゃあ、次の段階だ。見つけた魔力を、身体の中で動かして見るんだ。そうしたら、身体の中のどこか――はっきりとは言えない、場所とも言えない場所に、魔力が流れ込む『穴』のような感覚がいくつかあると思う。それが、スキルだ。そこに十分な魔力を流し込んだら、スキルが発動する」
「はい。探してみます」
シクロに言われた通り、さっそくミストは魔力を動かすことに挑戦する。
一度感知してしまうと、ミストには魔力を動かすのは簡単なことだった。一般的にはここで一番つまづきやすいのだが、逆にミストはこの部分が得意な様子だった。
「――ありました! 穴が……えっと、身体の中にはあるんですけど、でもどこにも無いというか、不思議な感覚の場所にあるのが分かります」
「そう。そのどこでもない場所にスキルがあるんだ。魂の中だとか、いろんな説があるけれど、とにかくその場所に魔力を流し込めば、スキルは発動する。一つずつ発動して、効果を確認していこう」
「はいっ!」
いよいよ、ミストにとって人生初のスキル発動となった。
「まずは、一つめいきますっ!」
ミストはそう言って、魔力をスキル発動の為に流し込む。
すると――ミストの脳裏に、いくつかの情報が浮かび上がる。
「これは――魔法の、知識?」
驚いたように目を見開き、ミストは報告する。
「ご主人さま。一つ目のスキルは、何らかの魔法系のスキルみたいです」
「なるほど。今の段階で、使えそうな魔法は?」
「はい。いくつかあるみたいですが……一番魔力を使うものを発動してみます」
言って、ミストは魔法を発動させる。
すると途端に――ミストを中心とした、暖かな光が部屋一面に広がってゆく。
「この感じ……ヒールっぽいから、神聖魔法? しかもこの範囲だから多分、最低でもエリアヒールだ!」
シクロはそう言うと、そのまま勢い良くミストを抱き締める。
「すごいじゃないかミスト!」
「ふぐっ!?」
「エリアヒールを最初から使えるなんて――まるで聖女みたいな能力だぞ!」
まるで聖女、とまで言われて、ミストは目が点になるばかりであった。