08 身支度
シクロはミストを連れて、まずはデイモスの屋敷へと向かった。
ミストがあまりにも見窄らしい格好であった為だ。屋敷の設備を借りて、まずはミストを洗い、綺麗にしてから街に連れて行くつもりだった。
「おーい、デイモス! 風呂を貸してくれぇー!」
屋敷の門の前に立って、シクロは大声でそんなことを叫んだ。
「……シクロ様。そういった用件でしたら我々が承りますので」
無視された門番が、呆れ半分でシクロに話しかける。
「あ、そう? 直接デイモスに話が伝わったほうが早いかと思ったんだけどな」
「門から領主様を直接呼び出す人がどこに居ますか」
「ここにいるじゃん」
シクロの言い草に、すっかり呆れる門番。
だが、そうこうしている内にシクロの目論見は成功した。
「――シクロ様っ! またいらして頂けたんですねっ!」
シクロの声が聞こえて飛んできたのは、デイモスではなくクルスであった。
目をキラキラさせながら走ってくるクルスは、さながら忠犬のよう。シクロは、クルスの頭に耳を、尻に尻尾を幻視した。
「クルスか。悪いんだけど、風呂を貸してほしいんだ」
「お風呂ですか?」
「ああ。パーティメンバーに奴隷を買ったんだが、良い扱いをされていなかったみたいでな」
言って、シクロは自分の背中に隠れるようにしているミストを指差した。
「シクロ様のパーティメンバーっ! それでしたら、ぜひ我が家のお風呂をお使い下さい!!」
「悪いな」
ということで、クルスの冒険者好き、というよりシクロ好きが功を奏し、あっさりと屋敷の風呂を借りる許可が降りた。
クルスの案内のままに進み、シクロとミストは大きな浴場へと到着。
「着替え等はこちらで用意させますので。お二人はどうぞゆっくり汗を流してきて下さい」
「ああ。助かるよ、クルス」
「いえいえっ! シクロ様のお役に立てて光栄ですっ!」
ニコニコを純粋な笑顔を浮かべてクルスは言った。
そうしてクルスも立ち去ったので、いよいよ入浴の時。
「さあ、ミスト。風呂に入るぞ」
「……あ、あの。ご主人さま」
「ん? なんだ? なんでも言っていいぞ」
シクロはできるだけ優しく聞こえるように意識して言う。
すると、ミストは恥ずかしそうに口を開く。
「……その、ご主人さまも、ご一緒に入るのですか?」
「ああ。ミストは体力が落ちてるだろ? そんな状態で、一人でこんなデカい風呂に入るのはちょっと危ないからな。ボクが洗ってやる」
「そ、そうですか」
さすがに身体を洗われるのは恥ずかしいのか、ミストは視線を俯ける。
それを見たシクロは、緊張を解そうとからかうように言う。
「そんなに恥ずかしがらなくていいぞ、ミスト。別にやましい気持ちも無いし。ミストは子どもだろ? 保護者と一緒に風呂に入るなんて変な話じゃない」
「……え、あの」
シクロの言葉に、戸惑いながらミストは訊く。
「ご主人さまは、私を……いくつぐらいだとお思いですか?」
「ん? 10歳か、それより少し上ぐらいだろ?」
「……違います」
ミストは頬を膨らませて、少し怒ったような様子で言う。
「私、17歳です」
その言葉に、シクロは目が点になる。
「……は?」
「ですから、私、17歳です。……スキルがあるので、16歳より下はありえません」
シクロは、言われてようやく気づく。ミストは『邪教徒』という職業スキルを持っているのだから、当然16歳よりは上のはずなのだ。
だが――シクロから見て、ミストはあまりにも小柄で、やせ細っているのもあって、とても17歳には見えなかったのだ。
大きく見積もっても12歳。体格から考えると、シクロの妹であるアリスの10歳ぐらいの頃と同じぐらいに見える。
「……そ、そうだったのか。ボクと一歳しか違わないってなると……いや、悪い」
「……いえ」
そのまま、二人の間に奇妙な沈黙が流れる。
が、黙り続けてもどうにもならないので、シクロが話を切り出す。
「……あー、すまん。年齢のことは悪かった。けど、一人で風呂に入るのが危ないってのは本当だから。恥ずかしいかもしれないけど、我慢してくれ」
シクロは言って、ミストと顔をしっかり向かい合わせながら言う。
「やましい気持ちは無いし、そういうことも一切しない。約束するから」
そんなシクロの言葉に、ミストは驚きの表情を浮かべ、訊く。
「……命令を、お使いになられては?」
「ああ、なるほどな」
その言葉で、ようやく気づいたように言うシクロ。
「でも、俺はそんなことに命令を使う気は無い。ミストには、可能な限り自由にしてもらいたいからな」
そう言って、微笑むシクロの姿を見て、ミストはまた少し、緊張が解れる。
「――はい。ありがとうございます」
少しだけ、嬉しそうな表情を浮かべて、ミストはお礼の言葉を口にするのであった。
本日、とうとう月間ハイファンタジーランキングにて9位になりました!
目標だった月間トップ10入りを果たせました!
これもひとえに応援いただいている皆さまのお陰です、ありがとうございます!
せっかく月間トップ10入りを果たしましたので、記念として次の土曜日曜は朝と夜の1日2回投稿をさせていただきます!
今後とも、当作品をよろしくおねがいします!