06 邪教徒
シクロは、その身分奴隷の少女を見て、言葉を失いそうになる。
まず、格好があまりにも見窄らしかった。ボロ布、と言うにも酷すぎる汚れた布で身体を覆っており、髪もボサボサ、体臭も異臭レベルで臭う。
身体も細くやせ細っており、人間扱いすらされていないのは自明であった。
「……おい、どういうことだ、これは」
「法律で定められているのですよ。『邪教徒』のような、国教に仇をなす職業スキル持ちは、こうした酷い扱いをするよう奴隷商人側に規則があるのです」
その、あまりにも酷いルールを聞いて、シクロの頭は怒りに煮えくり返っていた。
これまで――シクロは、自分が『時計使い』という意味不明な職業スキルを手に入れたことで、かなり不幸な目に遭ったような気がしていた。
しかし、目の前の少女を見て……それと比べて、自分がどんなに恵まれていたのかを自覚する。
職業選択の自由を奪われた。望まぬ境遇に落とされた。結果、巡り巡って色々な人に裏切られた。
しかし――生きる自由までは奪われなかった。
犯罪奴隷に落ちて、ディープホールの奥深くへと突き落とされるまで、シクロは自分の自由な選択のままに日々を生きていた。
それでも自分は不幸な方だとシクロは思っていたけれど――この少女と比べたら、あまりにも恵まれていた。
シクロの頭の中で、ぐるぐると思考が巡り、とにかく強い怒りだけが高まっていく。
その怒りには――どこか自分より不幸なやつなど居ない、と思い込んでいたことに対するものも含まれていた。
それと同時に、国への、世界への怒りがあった。
どうして――この少女が『邪教徒』なんてスキルを押し付けられて、ただそれだけでこんな酷い目に遭わなければいけないのか。
そんなのは間違っている、とシクロは断言できた。
職業スキルだけを見て人を判断するこの国も、世界も、宗教も――スキル選定の神も。
全てが間違っている、とシクロは思った。
「――この子を買う」
「はい?」
「この子を買うと言ったんだ。手続きをしてくれ」
「か、かしこまりましたっ!!」
まさかシクロが購入するとは思ってもいなかったのだろう、奴隷商人は慌てて動き出す。
そうして奴隷商人が売買契約と隷属魔法の準備に入っている間に、シクロは少女へと歩み寄る。
「――君の名前は?」
シクロは、できるだけ優しく聞こえるように気遣いながら訊いた。
「……ミスト。ミスト=カーマイン、です」
「ミストか。素敵な名前だ」
言って――シクロは、自分の手が汚れるのも気にせずに、薄汚れた少女、ミストの頭を撫でた。
その動きに、ミストは怯えてビクリと身体を強張らせる。
「心配しなくていい。ボクは、ミストを傷つけたりしない」
「……っ」
シクロの言葉が信じられないのか、ミストは緊張したまま、拳を握りしめて恐怖を押し殺すように我慢し続けている。
それを見て、シクロは――もっと思い切り理解させなければ、と考えて、ミストの身体を抱き締める。
「……えっ?」
「安心してくれ。これからは、ボクがミストを守ってやるから。職業スキルを理由にミストを傷つけるような奴らは、全部ボクがぶっ潰してやる」
シクロの真剣な言葉が功を奏したのか、ミストの反応が少しだけ軟化する。
「……ありがとう、ございます」
そう言って、少しだけ身体から力を抜くミスト。
まだ緊張と、警戒心は抜けていない様子だったが、今はそれでいい、とシクロは思った。





