04 指名依頼
「いいぜ。ボクもあのダンジョンについては気になってたんだ。それに、ボクがもっと強くなるにはあのダンジョンの奥に進むしかない。アンタの依頼も、そのついでにこなせるだろうからな。一石二鳥だ」
「ははは。前向きに考えてくれるようで嬉しいよ」
シクロが乗り気な言葉を口にしたことで、デイモスも機嫌良く話を続ける。
「さて。依頼の詳細についてだけどね。まず目的としては、我々――というより、私個人としては、ディープホールを完全攻略してもらいたいと思っている」
「それは……いいのか?」
ダンジョンの完全攻略とは、最深部を守る守護者を撃破し、ダンジョンの機能を停止させることを意味する。
ダンジョンが消滅するわけでは無く、また魔物の自然発生も起こる為、完全に無力化されるというわけではない。
しかし、ダンジョンが自ら積極的に魔物を生み出すようなことは無くなる。魔物の湧く頻度も下がり、ダンジョンから溢れ出る可能性も大きく下がる。ダンジョン内のトラップの類も、一度解除すれば二度と修繕されない。
つまり、ダンジョンの資源力は大きく落ちるものの、代わりに安全性が手に入るのだ。
だからこそ――シクロはいいのか、と聞いた。ディープホールから得られる利益で栄えたノースフォリアだ。その利益を減ずるようなことをしてしまっていいのか、それをデイモスに確認しなければいけなかった。
「問題ない。むしろ、ずっと望んでいたことだよ。ノースフォリアの発展はディープホールと共にあった。――けれど、ノースフォリアを襲う大災害も、ディープホールから来る」
「……スタンピード、ってやつか」
ダンジョン内の魔物が増えすぎて、地上へと溢れ出る現象。それがダンジョンのスタンピードである。
ノースフォリアは、最悪のダンジョンとまで呼ばれたディープホールのスタンピードに見舞われながら、これまで何とか発展し続けてきたのだ。
「シクロ君が思うほど、ノースフォリアはディープホールに依存してはいない。むしろ、ディープホールの危険に抗う為、ディープホールの資源を利用しなければいけなかったとも言える。……完全攻略してリスクを減らせるのなら、是非ともお願いしたいぐらいなんだよ」
「なるほど。ご領主様としてはそういう意見なわけか」
シクロも納得していた。もしもディープホールの『中層』に居たような魔物が溢れ、スタンピードを起こしたら。
間違いなく、ノースフォリアは壊滅する。
そんなリスクを抱えたままではいられない、というのは納得のいく話だった。
「で、報酬は?」
シクロは肝心の、依頼の報酬について話を振る。
すると、デイモスはとんでもない内容を口にする。
「いくらでも。私に出せる限り、君が望むだけの報酬を用意しよう」
「……マジ?」
さすがに、この内容にはシクロも耳を疑った。
「冗談でもなんでもないよ。ディープホールの完全攻略には、それだけの価値があると思っているからね」
シクロは、呆気にとられたままだった。
それに気づいていながらも、デイモスは話を進めていく。
「と、いうわけで。君にはぜひともこの指名依頼を受けてもらいたいわけだけど。それに当たって一つ問題がある」
「問題?」
シクロが問い返すと、デイモスは頷く。
「そう、それは仲間だ」
「仲間ぁ!?」
なんでそんなものが必要なんだ、とシクロは言いたくなった。
そんなシクロの反論を遮るように、グアンが補足の説明を付け加える。
「ギルドの制度上の問題だよ」
「制度上?」
「ああ。世の中には、ダンジョン攻略を自称することで小銭稼ぎをする小悪党がいるからな。そういう実力の無い、頭も悪い冒険者をふるいに掛けて弾くために、別々で証言を取って矛盾が無いか精査し、真偽を判断する必要がある。――探索もしていないダンジョン内での出来事など、完璧に口裏を合わせることなど不可能だからね」
なるほど、とシクロは納得する。
「だが、単独でダンジョンの完全攻略をした場合、ギルドの職員の確認が出来るまで攻略は認められない。そして、ディープホールの最深部を調査可能なギルド職員など居ない。つまり――完全攻略を事実とするには、証言の一致で攻略の証明とする為に、パーティメンバーが必要なのだよ、シクロ君」
――予想すらしない角度から訪れた困難に、シクロは苦笑いを浮かべるしかなかった。
※追記※
気になる方が多いようなので、制度についての説明をより詳しく書きました!