02 呼び出しの本題
「すまないね。クルスがどうしても君と会いたがっていてね。勉強も兼ねて、連れてきたんだ」
ノースフォリア辺境伯、デイモスが事情を語る。
「ボクに? なんで辺境伯様の子どもがそんなことを?」
「この子は冒険者に憧れがあってね。――とまあ、それはまた後で話をしよう。今回君を呼び出したのは、いくつかお願いがあるからなんだ」
やっぱりか、とシクロは思う。どうせ自分の力を利用したいだけだろう、と考える。
だが、別に断る理由も無い。ここは一旦、話に乗ることにした。
「分かった、とりあえず話は聞く。――けどその前に言っておく。ボクはアンタが貴族だからって、それだけで畏まったりはしない。あくまで対等の関係での交渉だ。それで良いなら話を続けてやる」
「……シクロ君ッ!」
シクロの物言いに、ギルドマスターが忠告する。
「いくら君が特別だと言っても、その態度はまずい」
「知らないね。ボクはそもそも、この国の貴族のことを一切信用していない。尊敬するべき相手だとも思っていない。それでも何か頼みたいってのはそっち側なんだ。礼儀を尽くすべきはボクじゃなくてアンタらの方だろ」
シクロは視線を鋭くして、ギルドマスターとデイモスへと順に視線を向ける。
「……かっこいい」
小さく呟いたクルスの一言は、聞こえないフリをすることにした。
「――ふふふ、そうかい。まあ、分かったよ。私も別に、SSSランク相手に偉ぶりたいわけじゃないからね。君の礼儀に関しては不問にしよう」
デイモスは、あっさりとシクロの提案を受け入れる。
「ほら見ろ。話の分かる人だったじゃねえか」
シクロは言って、デイモスを指差しながらニヤリと笑みをギルドマスターに向ける。
「グアン。ここはシクロ君を優先するべきだよ」
「……分かりました」
ギルドマスターはデイモスに諭され、項垂れながらもシクロの態度を飲み込むことにした。
「アンタ、グアンって名前だったのか」
「知らなかったのかい? グアン=コヤージュはノースフォリアでもそれなりに名の売れた元Aランク冒険者だったんだけど」
「いや、知るわけねーだろ」
デイモスがギルドマスターについての情報を語ったが、さすがに辺境出身でもなければ冒険者でも無かったシクロが知るはずも無かった。
「あはは。まあ、雑談はこれぐらいにしておこう。本題なんだが――まずはシクロ君。君から情報を買いたいんだ」
「情報?」
「ああ。君がディープホールの深層に落ちて、戻ってくるまでの全ての情報が欲しい。どんな魔物が居たのか、どんな地形で、どんな危険が潜んでいるのか。とにかく、そういったダンジョンの情報が欲しいんだよ」
デイモスの要求は、シクロにも納得出来るものだった。
ノースフォリアはディープホールと共に発展してきた都市だ。今後、より深層を冒険者達が探索することにもなるだろう。
そんな時、危険に関する情報があると無いとでは、冒険者達の生存率は大きく変わる。
「分かった。それで、いくらぐらい出してくれるんだ?」
「最低でも、白金貨百枚は出す用意があるよ」
「ひゃく!?」
さすがに桁外れな数字だったので、シクロも目を見開いて驚く。
「どうかな。満足してもらえるかな?」
「……ああ。それだけの報酬があるなら、ディープホールの話をするぐらいは構わない」
「ありがとう、シクロ君」
「ただ、一つだけ先に訂正させてくれ」
シクロは、ある勘違いについてまず訂正することにした。
「アンタらがディープホールの深層だと思ってる場所。ボクが落ちた場所。あそこは――深層じゃない。まだ中層を少し過ぎた所だったみたいだぞ」
「なっ!?」
そうして、今度はデイモスの方が驚きのあまり目を見開くことになった。





