01 領主との面会
――領主との面会が決まったシクロは、ギルドマスターに紹介してもらった宿屋に泊まり、その日を終えた。
ちなみに、宿はかなり高額で貴族なども使うことがある上流階級向けの宿屋だった。
そうして最高の宿で一晩過ごし、翌日。
いよいよ、領主との面会の時が来た。
宿屋まで、ギルドマスターも乗った馬車が迎えに来たので、シクロもこれに乗って領主の住む屋敷へと向かう。
「……シクロ君。先に言っておきたいことがある」
「ん? 何だ?」
「済まなかった」
ギルドマスターが何故か謝罪をして、頭を下げた。わけが分からず、シクロは呆気にとられる。
そんなシクロに向けて、ギルドマスターが訳を話し始める。
「君が冒険者達に、虐待を受けていたことは知っていた。それが本来は、許されない行為だということも。だが、君の評判は悪かった。しかも犯罪奴隷だ。だから、君と冒険者、両方を天秤にかけ、ギルドにとって利益がある方を私は選んだ」
ギルドマスターの話から、ようやく意図が掴めるシクロ。
「なるほどな。つまり、ボクが酷い目に遭っていたことを、黙認してたってことか」
「そうだ。つまり私も、君がディープホールに落ちる切っ掛けを作った共犯者であると言える」
確かに、とシクロは考えた。言われてみれば、少しだけムカついて来る。
「だが――それでも、裁きを受けるつもりはない。必要な判断であったし、これからも私はギルドを回さなければいけない。だから、せめてこの場でだけでも謝らせてくれ。すまなかった」
「……チッ。自己満足だな」
「否定はしない。だが、君に敵対する意志は無いという証明のつもりでもある」
ギルドマスターの言う通り、シクロはギルドが自分の敵にはならないだろうと考えていた。
何しろ利益を優先して、奴隷の虐待を見過ごすような選択をするのだから。SSSランク冒険者のもたらす利益についてもよく考えてくれるだろう。
「まあ、いいよ。ボクも無意味な暴力は振るいたくないし。アンタが直接手を出したわけでもないし。……許しはしないけどな」
「ああ。済まなかった」
ギルドマスターが再度頭を下げて、馬車の中での会話は終わった。
その後、領主の屋敷へと到着するまで、二人が会話をすることは無かった。
到着後は、執事らしき人物の案内を受け、屋敷の中へと通される。
「――では、こちらでお待ち下さい」
そうして、シクロとギルドマスターの二人は応接間らしい場所へと通された。
「……落ち着いているのだな」
「は? 何が?」
「普通、平民は貴族の屋敷に入ればあれこれと目が移る。シクロ君にはそれが無いと思ってな」
「ああ。王都ではいちおう、一流の時計職人だったからな。貴族様相手の仕事だってやってたから、もう慣れたよ」
それこそ、シクロは王宮にすら出入りするほどの職人だったのだ。
領主の館も平民にしてみれば十分に物珍しいのだが、さすがに王宮ほどではない。シクロにとって驚く程のことは無かった。
そうして――暫く応接間で待っていると、優男といった顔立ちの一人の男と、もう一人、少年が入ってくる。
「待たせたね――私がこのノースフォリアの領主、デイモス=ノースフォリアだ。そしてこの子が、私の一人息子。クルス=ノースフォリア」
「あのっ! 初めましてっ! クルスと申しますっ!」
領主と共に姿を表した少年は、何やら目を輝かせ、興奮した様子で挨拶をするのであった。