23 ステータスシステム
シクロは呆然と、ギルドカードを何度も見返す。
間違いなく黒色であり、そこにはシクロ=オーウェンの名前が刻まれている。
「なあ、さすがに新規登録の冒険者がSSSランクって、まずくないのか?」
「安心したまえ。ディープホールの深層から一人で戻ってくるような偉業は、SランクやSSランクでも足りないからね。これは正当な、君の成し遂げたことに対する評価だよ」
「そうか、それならいいんだけど……」
実感の沸かないシクロは、まじまじとギルドカードを見つめる。
さすがに、突如今日から貴方が伝説の冒険者ですと言われても、すぐに自覚出来るようなものではない。
「それよりも、だ。そのギルドカードは、まだ君の個人情報を登録していない。だから、ギルドカードとしての機能は何一つ持っていない状態だ。当然、口座も使えない」
「あー、了解。その登録ってやつをすればいいんだな?」
「理解が早くて助かるよ。早速だが、君の『ステータス』を測定し、そのギルドカードに情報を刻み込む。それでカードは有効化され、口座も使えるようになるはずだ」
ステータス、という言葉にシクロは僅かばかり興奮する。
ステータスというのは、冒険者ギルドが行っている個人の能力を数値化して表示するシステムである。
冒険者ギルドはこのシステムを使い、冒険者をより厳密に評価し、ランク付けをしているのだ。
そして――このステータスシステムというのが、冒険者にとっての楽しみの一つでもある。
自分がどれだけ強くなったのか。魔物を倒せば倒すほど、ステータスは上昇していく。
そうして数値が伸びていくのを実感出来るため、多くの冒険者はステータスが伸びることを楽しみにしながら活動している。
シクロもまた、以前は荷物持ちという身分でありながらも、ステータスシステムに対して憧れを持っていた。
また、現在の自分がどれだけ成長したのかも気になっていた。
「よし、そんじゃあさっそく、ステータスを測ってくれ!」
シクロに言われ、ギルドマスターは頷き、ギルド職員の方へと目配せして合図をした。すると、ギルド職員が大型の魔道具を運んでくる。
「君のステータスはおそらくかなり高いはずだ。ギルド内に常設してあるステータス測定器では、おそらく測りきれないだろう。そこで、このギルドで最も性能の高いステータス測定器を使わせてもらう」
「へぇ、このでっかいのも測定器なのか」
言って、シクロは大型の魔道具と、ギルドの一角に設置された魔道具を交互に見比べる。
一角に設置されている魔道具こそが、一般的なステータス測定器。銅貨を入れると起動し、ギルドカードを入れ、バーを握ると測定を開始。ステータスを表示し、その情報をギルドカードにも刻んでくれる。
「さあ、ギルドカードを差し込み、バーを握ってくれ」
「りょーかい。仕組みはおんなじなのね」
ギルドマスターに言われるがまま、シクロは大型のステータス測定器にギルドカードを差し込み、バーを握る。
すると、すぐさまステータス測定器が稼働して――数秒待つだけで、シクロのステータスを表示してくれる。
―☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆―
名前:シクロ=オーウェン
ギルドランク:SSS
生命力:S+
最大魔力:SS-
運動能力:SS+
魔法出力:SSS-
魔法抵抗:S+
魔力操作:SSS
―☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆――☆―
「これはまた……ふむ、SSSランクにふさわしい数値だな」
ギルドマスターがシクロのステータスを確認し、そう呟く。
「なあ、これってどれぐらいすごいんだ?」
「そうだな。例えばSランクの冒険者でも、ステータスがSに到達するのはごく一部だ。己の得意分野のみSに到達し、他はAやBとなっているのが普通だ。しかし君は……全てがSを超えている。どの能力も、Sランク冒険者の最高峰すら超えている、ということになる」
「それはまた、とんでもないな」
言われてようやく、シクロは自分のステータスがどれだけ規格外であるのか理解した。
「さて――それではシクロ君。これで冒険者ギルドでの登録も完了した。口座も開設されたので、後ほどこちらで残りの売却益の方を振り込んでおこう」
「ああ、頼む」
「そして……ここからは、私からのお願いのようなものになるのだが」
ギルドマスターに言われ、シクロは目を細める。どのような要求があるのか警戒した為だ。
しかし、ギルドマスターの発した言葉は、そこまで警戒するべき内容でもなかった。
「実は、君のことを領主様にも報告したところ――興味を示されたのだ。そこで、可能であれば、なのだが……領主様と会ってもらいたいのだが」
「――へ? 領主様と?」
「そうだ。ディープホールの、それも深層から単独で帰還した君から色々と話を聞きたいそうだ」
言われて、シクロは考える。領主と会うことで、メリットとデメリットは何があるのか。
まずデメリットだが、領主がシクロを無理矢理に自身の配下として取り込もうとする可能性がある。
だが、その場合はシクロの能力があればいくらでも逃げられる。
むしろシクロの力を警戒するなら、領主側も無理な要求は出来ないだろう。
そしてメリットは――いくらでも考えられる。
領主と顔を繋ぐことで、権力を持つ人間との縁が出来る。
そうすればシクロの当面の目的……シクロを裏切り、追い詰めた人間たちへの復讐に利用できるかもしれない。
そうでなくとも、領主との繋がりが出来るのは非常に美味しい。
そうしてメリットとデメリットを考えた結果、シクロはメリットの方が大きいと判断した。
「――分かった、いいよ。領主様と会って話をするんだろ? ボクにとっても悪くない話だし」
「そうか、そう言ってくれて助かるよ」
こうして――領主との会談が決まるのであった。
そしてこの出会いを切っ掛けに――シクロの運命はさらに大きく動き出す。
お読みいただきありがとうございます!
このお話で、第三章は終了です!
次回から第四章が始まります、お楽しみにお待ち下さい!
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