20 因果応報
シクロが受付前で待っていると、受付嬢が戻ってくるのと一緒にギルドマスターが顔を出した。
「ふむ……その奴隷の首輪。どうやら本物のようだな」
言われて、シクロは自分に付けられている首輪、犯罪奴隷の証である首輪を触る。
「悪かったな、偽物じゃなくて」
「……別に悪いということは無い。しかし、本当にディープホールから戻ってきたのかね?」
「ああ、そうだよ。――クソッタレの冒険者に突き落とされて、谷底からてくてく歩いて戻ってきたよ」
シクロが言うと、周囲の冒険者達がざわつく。また、ギルドマスターも眉を顰める。
「突き落とされた? 報告では、魔物に襲われ錯乱した君が崖に転落した、とあるが」
「違うね。ボクはあの時の冒険者パーティに散々虐待を受けていた。その一環で、谷底に突き落とすフリをされた。そこでちょうど服が破れて、フリじゃ済まなくなったんだけどな」
「なるほど。つまり報告の方が間違いだと」
「ああ」
ギルドマスターの問いかけに、シクロは頷く。
すると――周囲の冒険者たちの中から声が上がる。
「嘘だッ! そいつは嘘を吐いてるッ!!」
声を上げた冒険者に注目が集まる。その冒険者は――シクロを谷底に突き落とした冒険者パーティの一員であった。
「へぇ。ボクが嘘吐きだって?」
「そうだ! テメェのせいでこっちだって迷惑だったのによォ、くだらねぇ嘘まで吐きやがってッ! どこまで迷惑かけりゃあ気が済むんだよこのクズッ!!」
「ハッ、どっちがだよ。荷物持ちが、丁寧に荷物を置いてから錯乱したってのか? ――なあ、ギルドマスター。こいつらからボクが預かってた荷物、殆ど無事だったんだよな?」
シクロに聞かれて、ギルドマスターは手に持っていた報告書に目を通す。
「ふむ……そうだな。確かにパーティの荷物は殆どが無事だったと報告書に書いてある」
「だ、そうだけど? ボクは随分と律儀な錯乱をしたらしいじゃねぇか」
「そ、そんなの偶然テメェが荷物を放り出しただけだッ!! 魔物から逃げ回る時に荷物を放り出して――」
「それはおかしいな。報告書では、休憩直後であったから荷物は背負って無かった、と証言されているようだが」
ギルドマスターが、さらに報告書の内容から矛盾点を指摘する。
「ち、ちくしょう……それでも俺たちはやってねぇ!! ってか、突き飛ばしたにしてもそれは俺じゃねぇ!!」
「いいや。もしもシクロ君の証言が本当なら、君たちのパーティ全員に過失がある。また、虚偽の報告をしたという点も見逃せないな」
「……くそッ!! テメェのせいでッ! テメェなんかくたばってりゃあ良かったんだよ!!」
男はシクロに向かって暴言を喚き散らす。
「そんなに死んでほしけりゃ、今度は突き落とす場所を選ぶんだな。お陰でボクは助かったし、スキルの本当の力にも気づけた。そしてお前らは罰を受けるしでいいことづくめだ! ありがとうよ、荷物持ちの犯罪奴隷以下の無能でいれくれてよォ!」
「クソがァァアアッ!!」
シクロに煽られ、男は感情が爆発。怒りのままに剣を抜き、シクロに襲いかかる。
「――無駄だよ」
だが、シクロは慌てていなかった。
強力な魔物を倒し続け、成長したシクロにとって、この男程度の攻撃は止まって見えるほどであった。
それだけ能力に格差があるのだから――当然、男の剣はシクロを捉えられず、空を斬る。
そのままシクロは男の剣を持つ手を取り、捻じり上げる。
「あだだだだッ!?」
「フン、これで殺人未遂の余罪も追加かな?」
「は、離しやがれッ!!」
「その必要は無いぞシクロ君。――この男を拘束しろ!」
ギルドマスターが指示を出した途端、ギルドに居た冒険者たちが動き出す。
多勢に無勢。男はたちまち無力化され、縄で縛り上げられる。
「――さて。邪魔が入ったが、話を戻そう。君がどうやって、ディープホールから帰還したのかについて」
「ああ。こっちも話したいことがあるからな。是非続けさせてくれ」
こうしてシクロとギルドマスターは話を戻し、帰還の詳細について話始めた。