19 ついに脱出
激戦を経て慎重さを取り戻したシクロは、警戒を怠らずにダンジョンを上ってゆく。
そうして――警戒の甲斐もあってか、以後は特にトラブルもなく、三日が経過。
ついにシクロは――久々の、太陽の光を目にする。
「――うおおおおおおッ! ボクは帰ってきたぞぉおおおッ!!」
無事、最悪のダンジョンの脱出に成功したシクロは大声を上げて喜んだ。
ダンジョンの入り口にはシクロ以外にも冒険者や警備の兵士などが居た為、一斉に不審者を見るような目で睨まれる。
「あ、ははは……すみません」
シクロは愛想笑いをしながらその場を離れた。
「――さて。それじゃあ次の目的地は……ギルドだな」
と呟きながら、シクロは冒険者ギルドを目指して歩いてゆく。
――ハインブルグ王国、北の辺境伯領。その領都でありつつ『最悪のダンジョン』攻略の拠点としても有名な都市、ノースフォリア。
最悪のダンジョンはノースフォリアでは『ディープホール』という通称で呼ばれており、これが存在するお陰もあって街は大きく発展してきた。
凶悪な魔物が多数存在するダンジョン、ディープホール。魔物がダンジョンからあふれるリスクはあるものの、魔物を討伐して得られる資源の恩恵も大きい。
時に犠牲を出しながらも、ノースフォリアはディープホールを攻略し続けることで発展してきたのだ。
そうした理由もあり、ダンジョンとノースフォリアは目と鼻の先に存在しており、徒歩でも三十分も歩けば行き来が可能となっている。
魔物を倒し、強くなったシクロは軽く駆け足でこの道を抜け――わずか十分足らずでノースフォリアへと到着。
「久しぶりだな、この防壁も」
シクロはノースフォリアを取り囲む、巨大な防壁を眺めながら通用門を目指す。
ノースフォリアはディープホールがすぐ近くに存在するのもあって、魔物による襲撃のリスクが高い。
だがら街を囲むように、それこそ王都よりも遥かに頑丈で巨大な防壁が建造されているのだ。
この防壁があるからこそ、ノースフォリアの住民は安心して街で暮らせるというのもある。
「そういえば……ダンジョン探索許可証、ちゃんとあるよな?」
シクロは不安になり、収納空間に片付けていた荷物を取り出す。
谷底に落下した時に持っていた荷物には、シクロの身分を証明する為のものも入っていた。
そのうちの一つが、ダンジョン探索許可証。シクロという個人が、ディープホールに入っても良いとギルドが保証するもの。
「あったあった、これだ」
シクロは荷物の中から一枚のカードのようなものを取り出し、再び荷物を収納空間の中に仕舞う。
なお、何気なくシクロは収納魔法を使っているが、これも訓練の成果によるものである。
日時計の時計収納を鍛えたお陰で、陰を落とす物体であれば何でも収納が可能になった。
暗闇では収納できない、透明なものは収納できないなどの欠点はあるものの、一応はほとんどの物体が収納可能となっており、日時計生成で明かりを出せば暗闇でのデメリットも打ち消せる。
ほぼ万能の収納魔法へと発展しているのであった。
やがてシクロは通用門へと到着し、門番にダンジョン探索許可証を見せることで許可を貰い、通過する。
こうして――無事シクロは、ノースフォリアの街まで帰ってくることが出来た。
ここまで来れば、目的地はすぐ近く。
冒険者ギルドは、通用門から少し歩けば辿り着く場所にある。
奇妙な緊張と興奮を感じながら、シクロは早足でギルドへと向かう。
様々な感情が入り混じり、鼓動が早くなる。自然を笑みが漏れて、通行人から変なものを見るような目で見られてしまう。
だがそんなことは気にもとめずに、シクロは冒険者ギルドへと到着。
勢いよく扉を開け――冒険者たちの注目を浴びながら、堂々と受付に向かう。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
受付嬢が、シクロのことに気づかずに、ごく普通の対応をする。
そういえば髪の色が変わっているんだった、と思い返しながら、シクロは要件を告げる。
「ギルドマスターを呼んでくれ。――シクロ=オーウェンが、地獄の底から這い上がってきた、ってな」
「シクロ、オーウェン……?」
首を傾げる受付嬢。そしてシクロの顔をよく観察して――ようやく気づいた様子でハッとする。
「しょ、少々お待ち下さいっ!!」
受付嬢はかなり慌てた様子で、ギルドマスターを呼びに向かう。
そんな受付嬢を見送りつつ……冒険者たちの刺すような視線を浴びながらシクロは堂々とギルドマスターが出てくるのを待つのであった。
お読みいただきありがとうございます!
本日の連続投稿はこの話で終わりです。
明日からも1日7回、9月5日まで連続投稿が続きますので、是非お楽しみください!
この作品を面白いと思っていただけた方、もっと読みたい! と思っていただけた方は、よろしければブックマークをして評価ポイントの方をポチっと押していただければ嬉しいです!