15 時計使い、成長する
――シクロが時計使いの力を鍛え始めてから、一ヶ月が経過した。
現在のシクロは、例の洞穴の中から一歩も出ていなかった。
しかし修行は順調に進んでいた。
シクロは瞑想し、意識を集中していた。
(――『時計操作』、そして『時計感知』)
スキルを同時に行使する。
操作するのは、生成した日時計の光。この小さな光の球体を、時計操作によって洞穴の外へと移動させていた。
最初こそ、生成した場所の近くから動かせなかった。
しかし、シクロの一心不乱な訓練により、光は生成場所から数十メートルは離れた場所まで移動させることが可能となっていた。
そして――光を洞穴の外に出すことによって、ダンジョン内部が光によって照らされる。
これにより、あらゆる物体は陰をおとす。
つまりは、日時計の感知の対象範囲となるのだ。
この技術を使い、シクロは洞穴の中に居ながらにして、周辺の状況を事細かに知ることが可能となった。
最初はぼんやりとどこに何があるか感知できる程度だったのが、今では白黒の写真でも見ているかのように鮮明に理解出来る。
つまり――どこにどんな魔物が潜んでいるかも、はっきりと分かる。
「――いた」
シクロは、目的の魔物を発見する。
それはかつては撃破するだけで気絶するほどの強敵であった、人面の怪物。
触手をくねらせながら光を見つめる怪物。この光が何なのか、全く理解していない様子。
そこにシクロは――さらに時計使いの力を放つ。
「よし、『時計生成』ッ!」
シクロは時計生成を発動。すると怪物の身体を包むかのように――巨大な光の玉が出現。
これもまた、日時計の生成により生まれる太陽を模した光である。
そして太陽を模しているからこそ――その熱量は、非常に高い。
「ギャアアアアァァァアッ!!?」
怪物の身体を焼き尽くしてしまうほどに。
わずか数秒の間に、光は怪物の身体を焼き尽くしてしまう。
黒焦げになってしまえば生きていられるはずもなく、怪物は息絶える。
その様子を、もう一つの小さな光を使った時計感知でじっくり監視していたシクロ。
確実に怪物が絶命したのを確認してから――小さくガッツポーズを取る。
「……よしっ! 目標のタイムを切れたぞ! これで、全ての課題が完了だ!」
シクロはそう言って喜びながら――壁に新たな文字を刻んでいく。
そこには、シクロのこの一ヶ月間の努力が事細かに記録されていた。
☆それぞれの課題☆
☆日時計
・オリハルコン剣の生成コンマ1秒:完了
・光の生成コンマ1秒:完了
・生成した光、オリハルコン剣の維持1時間:完了
・遠距離生成50メートル以上:完了
・光で怪物討伐3秒:完了
・光の超高速射出:完了
・陰の固定で怪物を拘束10分:完了
・感知、鑑定、操作の範囲50メートル以上:完了
☆水時計
・自分の身体より大きな水生成コンマ1秒:完了
・オリハルコン盾の生成コンマ1秒:完了
・生成した水、オリハルコン盾の維持1時間:完了
・遠距離生成50メートル以上:完了
・水圧で怪物吹き飛ばし:完了(カエルの魔物なら潰して殺せる)
・自分の身体より大きな水の氷結速度コンマ1秒:完了
・氷の維持1時間:完了
・氷結した水の超高速射出:完了
・氷で怪物討伐3秒:完了(槍を発射して刺した)
・感知、鑑定、操作の範囲50メートル以上:完了
☆砂時計
・自分の身体より大きな砂の集合体生成コンマ1秒:完了
・砂の維持1時間:完了
・遠距離生成50メートル以上:完了
・水と合わせての超高速射出:完了
・ウォーターカッターで怪物討伐3秒:完了
・感知、鑑定、操作の範囲50メートル以上:完了
☆腹時計
・腹時計操作で怪物を餓死させる:完了(過去ではなく未来に操作すれば餓死できた)
・感知、鑑定、操作の範囲50メートル以上:完了
・エネルギーキューブの貯蓄100個:完了(軽い治癒効果があると判明したため)
「――これだけの課題を達成できると、やっぱり達成感があるな」
しみじみとつぶやくシクロ。
「……さて。それじゃあ課題も全部達成できたし。修行はもう十分なはず。魔物もたくさん倒してきたし、筋トレもしてたから強くもなっているはず」
ダンジョンに限らず、魔物を倒すことで人はその魔力のようなものを吸収し、強くなっていく。
この現象のお陰で、既にシクロの身体能力や魔力の量は著しく上昇していた。
また、筋トレの成果もあって体付きもかなりがっしりとしたものになっている。
これ以上、この洞穴で出来ることは何も無いと言えるだけの準備が出来ていた。
「さて――それじゃあ、脱出するかっ!」
ようやく――シクロは意気揚々と、長い間過ごしてきた洞穴から足を踏み出しすのであった。