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14 第17代正妃、動き出す




 ――職人ギルドでは、ギルドマスターであるロウの怒りの声が響き渡っていた。


「全く、なんてことをしてくれたんだッ!!」


 ロウはコウを呼び出し、ギルドマスターの執務室でコウを責め立てる。


「お前が自信満々に出来ると言ったから任せたのだぞ!? それがなんだ!? たった三日で壊れる? そんな間抜けな仕事、あの無能のシクロ以下ではないか!!」

「そ、それは違うよ父さん! 僕がシクロ以下なわけがない!!」


 コウは慌てて反論する。


「あの古時計はシクロのずさんな修理であちこちメチャクチャだった! それを僕はしっかりと尻拭いするみたく修理したんだ!!」

「だったらなぜこんなことになったのだ!?」

「それは……多分、シクロのせいでガタが来てたんだよ! それでちょうど、運悪く僕が修理した後に壊れたんだ!」


 コウの反論にも一理ある、と思い直したロウは一度考える。


「……だが、結果的に我がギルドの信用が失墜したのは事実だ。それに、ガタが来ていたならそれも含めてお前が修理するべきだったのだ」

「そんな、どう見たって大丈夫そうだったんだから、そんなの無茶苦茶だよ」

「うるさい! ひとまずお前には一週間の謹慎処分だ!」

「くっ……」


 こうしてコウは、ロウによって一週間の謹慎処分を言い渡された。


 そしてロウは、王宮との縁を再び繋ぐ為の策を考える。

 だが……既に壊れてしまった関係を戻す手段など、到底考えつかなかった。




 一方で、王宮にて。


「――ああ、こいつぁひでえなぁ」


 古時計の中を確認しながら――王都で鍛冶屋を営む男がぼやく。

 この男、シクロが解雇される以前から様々な部品の発注を承っていた人物であり、王宮の古時計の部品制作も承っていた。


 その縁で今回、壊れてしまった古時計の修理が出来ないか、と王宮から呼び出されたのだ。


「どうなっているのですか?」

「見ますかい、オリヴィア様。……いや、かなりショッキングな状態ですから、やめといたほうが」

「いいえ。確認させてください」


 そうしてオリヴィアが古時計の中を確認すると――それはもう、酷い惨状であった。


「これは……」


 思わず声を漏らすオリヴィア。

 それも当然の反応であった。何しろ、古時計内部は無数の歯車が散乱しており、もはやどこにどの部品が付いていたのかもわからないほど荒れていたのだから。


「原因は、おそらくここですぜ」


 鍛冶師はとある箇所――コウが最初に歯の欠けた奇妙な形の歯車を差し替えた部分を指で示す。


「本来、ここには虫歯車っつう特殊な形の歯車が刺さってたはずなんですがね。見た所、それらしい部品がどこにも無い。おそらく、修理したヤツが普通の歯車に差し替えちまったんでしょう」

「……そうなると、このような惨状に?」


 オリヴィアに頷いて答える鍛冶師。


「普通の歯車を差し込んじまうと、最初は動きますがすぐに噛んで止まっちまいます。そして……この時計はかなりでかいですからね。動力のゼンマイからはかなりの力が出てます。本来はこの力にも耐えられるよう、部品が全部オリハルコンで作られてるんですがねぇ……差し替えた部品はごく普通の鋼鉄だ。噛んだ後のゼンマイの出力に耐えきれず、割れたんでしょう。そうすりゃ、途端に溜まってた力が爆発して、中身が弾け飛ぶってわけですぜ」

「そうだったのですね……やはり、あの職人ギルドの方は信用なりませんね」


 オリヴィアの中で、職人ギルドの評価がさらに低下する。


「それで……修理はできますでしょうか?」

「……すまねえ、オリヴィア様。ちょっとした部品の差し替えぐらいなら、シクロのヤツから聞いた話を手がかりに出来なくもなかったかもしれねえんですがね。ここまでメチャクチャになっちまったら、もう俺にはどこに何をどう直せばいいのかさっぱりですぜ」

「そうですか――わかりました。今回は、ありがとうございます」

「いえ、力及ばず、申し訳ねぇです」


 こうして鍛冶師の男は、無念に思いながらも王宮を離れるのであった。


 その後――オリヴィアは侍女を呼び出し、指示を出す。


「至急――前任者であるシクロという時計技師を探し出しなさい。どのような手段を使ってでも」

「かしこまりました」


 オリヴィアの指示に、侍女は素直に従う。


(突然の担当者の変更といい……職人ギルドは何を考えているのかしら。――何にせよ、シクロさんでなければこの時計は修理できないでしょうね)


 こうして――オリヴィアが動き出したことにより、シクロを取り巻く運命もまた、大きく動き始める。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうのが見たかった。 [気になる点] 母親NTRはあるのかしら。
[一言] 虫歯車でしたか。 あれは地球史的にも、日本の田中久重が作った万年時計にしか使われていないはず。 異世界とはいえ、非常に珍しい歯車なのは間違いない。 知らなかったのも無理は無いけど、仕事を受け…
[一言] 現実の高級腕時計の歯車にも、素人が見たら歪に見えるヤツがあるんだよ いわゆるコアパーツってのが 仮にもプロが、微妙な噛み合い理解できずに交換? もうね、アホかと
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