13 職人ギルドの失態
職人ギルドの新たなエース、コウ=ショートックは現在、シクロの抜けた穴を埋めるべく、王宮の時計修理に向かっていた。
「ようこそいらっしゃいました」
侍女がコウを出迎え、時計のある場所へと案内する。
そして――辿り着いたところにあったのは、2メートル以上もある巨大な機械式の古時計であった。
そして、古時計と共に一人の年老いた女性が待っていた。
その服装と雰囲気から、コウはこの年老いた女性こそが今回の依頼主――ハインブルグ王国の第十七代国王正妃、現在の第十九代国王の祖母にあたる女性、オリヴィア=ルーテシア=ハインブルグであると推察した。
「オリヴィア様。時計技師様をご案内致しました」
「あら。今日はいつもの技師さんではありませんのね?」
オリヴィアに問われ、ここぞとばかりにコウは主張する。
「ええ、ですがご安心ください! 私めは職人ギルドでも最も優れた技術者であり、時計修理の知識もしっかりと修めております。問題なく、いえ今まで以上の品質で修理をしてみせるとお約束致します!」
「そうですか。それでは、よろしくおねがいしますね」
オリヴィアは一介の技術者にしては妙に態度のでかいコウに不快感を示すようなこともなく、優しく笑みを浮かべた。
「――では、さっそくですが。今回はどのようなご依頼内容になるのでしょうか?」
「依頼内容、ですか?」
コウに言われ、オリヴィアは首を傾げる。
「前任の方からは何も伺っていらっしゃらないのですか?」
「はい?」
「修理に必要なパーツが特殊である為、それが完成するまでの間は応急処置をして頂けると。今回も、その応急処置の定期検査をする日のはずですが」
オリヴィアに言われ――コウは、腸が煮えくり返るような思いだった。
(シクロめ……そんな適当なことを言って、王族の方を騙していたなッ!! 無能だとは思っていたが、まさか仕事欲しさのあまりに依頼主を騙すほどのクズだったとは!!)
と、コウは考えた。
たかが機械時計に、何度も応急処置をする必要があるほど制作に時間のかかる部品が必要であるはずがない。
故に、定期検査というのは王宮からの仕事が欲しかったシクロの嘘に違いない、とコウは思っていた。
だが、仮にも元身内。そんな人間の嘘、失態がバレるのは良くない。
そう考えたコウは、適当なことを言ってフォローすることにした。
「なるほど……しかしご安心ください! 前任者は未熟であった為にそのようなことを言ったのかと思いますが、私めは違います! 今日この場で、すぐにでも修理を完遂してみせましょう!」
「あら、それは頼もしいですわね。では、お願いいたしますわ」
こうして、コウによる王宮の古時計修理が開始される。
コウはまず、古時計の機械部分を確認するために、装飾の部品を外していく。
そうして歯車が露出したところで、不具合の起こっている部分を確認する。
(ふむ……なるほど、処置をした痕跡があるな)
シクロが応急処置をした痕跡を見つけ、その辺りをよく観察する。
なんと、そこにあったのは奇妙な形かつ歯の欠けた歯車。随分古いのか色あせているが、歪みを修正する為に削ったような痕跡があった。
(あのクズめ……歪んだ歯車をそのまま放置しやがったな!? 削って応急処置をしたつもりになりやがって……全く、どこまでも見下げたクズだな!)
コウは歯の欠けた歯車を外し、代わりに今回持ち込んだ手持ちの既製品の歯車から、ちょうど噛み合う形の歯車を嵌め込む。
他にも様々な部分で補修した跡があり、これをコウは手持ちの歯車と差し替えることで対処した。
「――よし、これで動くはずです!」
「まあ、とてもお早いんですのね」
驚くオリヴィアに、コウは鼻高々となった。
装飾など外装部品を元に戻し、古時計を再稼働させる。すると、時計は問題なく動き始めた。
「今回はありがとうございました。報酬の方は、職人ギルドの方へ振り込んでおきますわ」
「ええ。それでは今後とも、何かありましたら職人ギルドの方へよろしくおねがいします」
こうして修理を終えたコウは、上機嫌なまま職人ギルドへと帰っていくのであった。
そして――わずか三日後。王宮から職人ギルドへと使者が遣わされた。
なんと、古時計がすぐに壊れてしまった為、もう二度と職人ギルドには仕事を頼まないというクレームであった。