12 母親の苦難
その後――サリナは近所の住人にも話を聞き、状況を理解する。
シクロが強姦魔として捕まったこと。
それにより家が空き家となった為、国が処分する為に不動産屋に渡したこと。
そして、現在の住人に買われた。
つまり、自分が今は住まう家もない状態であるとようやく理解したのだ。
「どうしましょう……シクロちゃんのことも心配だけど、とにかく今はどこか住む場所を見つけないと」
シクロの罪については、絶対に冤罪だとサリナは考えていた。どれだけ証拠が上がっても、シクロのことを信じるつもりでいた。
しかし、シクロは既に裁きを受け、王都には居ない。
そしてサリナ自身、今は宿無しである。シクロを心配したところで、何の助けにもならない。
むしろ、サリナの方が助けを必要としているような状況である。
こうしてサリナは、トボトボとあるきながら、どこか安宿で一晩過ごそうとこの場を離れていく。
そして翌日。サリナは安宿で一晩を過ごした後、不動産屋へと向かう。
「……申し訳有りませんが。この条件でご紹介出来る物件はございませんね」
「そうですかぁ。分かりました……」
トボトボと、サリナは不動産屋を後にする。
既に伯爵家の使用人を辞めたサリナは現在無職。しかも住まい無し。
貯金もそう多くは無い。
そんな住所不定無職の女に紹介できる物件など、まともな不動産屋には存在しなかった。
「なら、まずはお仕事ね! 宿ぐらしでも、簡単なお仕事なら出来るはずだわっ!」
そうして、サリナは改めて気合を入れ直す。
宿暮らしをする人間も王都には少なくない。そうした人間も定職を持っている場合はある為、サリナでも働ける場所はあるはずだった。
そう――あるはず、だった。
「……強姦魔を育てた親を雇うつもりはないね」
「そう、ですか」
サリナはすっかり意気消沈した声で、拒絶の言葉を受け入れる。
今回、とある食堂にて配膳、接客業の募集が張り出されていた為に面接を受けた。
だが、結果は惨敗。
これまでに、他にも六軒の求人を巡ったサリナ。だが、どこでも答えは同じだった。
シクロのことは、聖女マリアが関わっていたこともあり、王都ではかなりの噂となっていた。
当然悪い噂であるため、多くの人間がシクロを、そしてその母親であるサリナを良くない目で見ている。
また店側がサリナの立場に同情的であっても、客の印象の悪さを考えたら雇えない、という結果に終わった。
そうした理由から――既に日も暮れようとしているのにも関わらず、サリナは住所不定無職のままであった。
「本当に、どうしようかしら……」
伯爵家に引き返し、再度雇用してもらう、という手も無くはない。
だが、もし雇用してもらえなかったら、馬車での移動にお金を使っただけになる。
ただでさえ残りの財産は少ない。大切にしなければならない。
何よりも――シクロがあまりにも悪く言われており、それが悲しかった。
すっかり心も弱っており、冷静な判断力も失われつつあった。
サリナは――窮地に立たされているのであった。
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本日の連続投稿はこの話で終わりです。
明日からも1日7回、9月5日まで連続投稿が続きますので、是非お楽しみください!
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