09 薬師絶望
ミランダは盗賊に捕まった後、アジトらしき場所に連れて行かれる。
そこでさらに手足を厳重に拘束され、樽の中に入れられる。
そうして外界との情報を完全に絶たれた状態で――樽ごと馬車か何かに載せられ、運ばれていく。
旅行の時とは違い、樽の中に居ては乗り心地は最悪であった。
揺れる上に狭く、周りがどこも硬くて休まらない。
夜だけは死なないようにと水と食べ物を与えられ……手を使えない為に犬のような格好で食べるよう強制された。
その様を見た盗賊たちに嘲笑されるが、それでもミランダの心は折れていなかった。
(――きっと、ブジン様が助けに来てくれる!)
そう、それこそ――近所の少年、シクロに強姦されそうになった時のように。
不安や心細さもあり、ミランダの中でブジンへの信頼感、好感度が勝手に上昇していった。
そうして三日後。盗賊たちがどこかの街に到着したことをミランダは悟った。
どうやら荷物検査を受けているらしく、盗賊たち以外の男の声が聞こえる。
やがてミランダの入っている樽も蓋を開けられたが――二重蓋となっており、一枚目の蓋を開けても、その下には小麦粉が入っているようにしか見えない。
実際には、小麦粉の入っている層は数センチしか無い。この層を開封するとミランダの姿が見えるのだが、荷物検査はそこまで厳重なものではなかった。
そこでミランダは声を上げようとするが、なぜか声が出ない。ミランダには口枷がされており、これが声を封じる魔道具であった。
また、身体もきつく縛られ、全く身動きが取れない。荷物検査をしている男に、自分の存在をアピールすることは出来なかった。
そうしてミランダはどこかの街の中へと運び込まれ――馬車はとある商店へと立ち寄る。
そこでミランダの入った樽は荷降ろしされ、さらに別の場所へと運ばれていく。
そうして街の中でも輸送が続き――最終的にミランダの入った樽は、スラム街の一角へと運び込まれた。
次はどこに運ばれるのか、とミランダが考えていたところで、とうとう蓋が開く。
一枚目の蓋が開き、二枚目の蓋も開く。
「引き上げるぞ、お前ら手伝え」
樽を覗き込んでいた大柄な男が言うと、他にも数名の男が樽に集まる。
そうして数名の男がミランダを縛るロープを持ち、まるで物を扱うかのようにミランダを引き上げる。
樽から出されたミランダが見た光景は――牢獄であった。
真っ先に目に入ったのは頑丈そうな鉄格子。そして鉄の足枷、手枷が壁に鎖で繋がれている。
明らかに、人間を拘束し、逃さないための施設であった。
「よし、誰か例の客を呼んでこい!」
大男が指示を出す。すると、男たちの中の一人が牢獄を出てどこかに向かう。
「さて嬢ちゃん。自分の境遇は理解できてるか?」
「……私を誘拐して、何になるっていうのよ」
大男に問われ、ミランダは気丈にも言い返す。
「テメェほど顔が良けりゃあ、そりゃあどうとでもなるさ。だがまあ――今回は、客の依頼だ。テメエが性奴隷として欲しかったんだとよ」
「そんな……」
性奴隷、と聞き絶望するミランダ。
だが、それでもまだ希望はある。
「……でも、残念ね。私を捕まえるなんて。貴方達は終わりよ」
「ああ? どういうことだ?」
「私は、ある貴族の子息様の招待で、ご領地に旅行をするところだったのよ。私が行方不明になれば、当然捜索の手が伸びるわ」
ミランダは男たちを警戒させ、どうにか自分の身が無事に済むようにならないか、と考えを巡らせながら話す。
「ほう、貴族の子息様ねぇ?」
「そうよ。だから私の身体に何かあればタダじゃすまないし、そもそも私をどうにかしている時間なんてあるのかしら? 一刻も早く逃げたほうがいいんじゃない?」
「なるほど、なるほど。そういうことかい」
大男はニヤリと笑う。
そして――同時に、新しく牢獄へと訪れた者の声が響く。
「ところでその貴族様ってのは――こんな顔をしてなかったかい?」
「――え?」
ミランダは、驚愕のあまり理解が追いつかなかった。
何しろ――牢獄へと入ってきたのは、ミランダがずっと助けを待ち続けていたブジン=ボージャックその人であったからだ。
色々とご意見を頂いているようなので、タグの方に『胸糞』タグを追加させてもらいました!