07 勇者の本性
「……どうして、そんなことをしたんですかっ!?」
マリアは興奮して、怒りと悲しみが混じり合った声で叫ぶように問い詰める。
これに、レイヴンは嫌味な笑みを浮かべたまま答える。
「どうしてって。普通に、アイツに冤罪を吹っかけたいって頼まれたからだけど?」
「そんなっ!!」
「俺も、アイツがいるせいでお前と一度もヤれてなかったからなぁ。ちょうど良かったんだよ。で、アイツが金を持っていたことにするにはどうすればいいかと考えてたところで、お前の方から教えてくれたんじゃないか。かなりの額を送金し続けてきたって」
「うっ……」
自分のせいだ、と言われた気がしてマリアは口ごもる。
「で、調べてみれば横領されてて、さすがに笑っちまったよ。本当に送金されてたら、その金をどうにか処分する手間が必要だったけどな。お陰で手間が省けてあっさり冤罪を被せられたぜ?」
「そんな……っ」
何にせよ、マリアがシクロに送金していた、とレイヴンに証言してしまったことが全ての切っ掛けだった。
それを黙っていれば――シクロを庇い、お金などあるはずないという態度を取っていれば。
シクロが冤罪を被ることは無かったかもしれないのだ。
それを思い、マリアの気分は更に重く、暗くなる。
同時に、だからこそレイヴンへの怒りが高まる。
「……絶対に、許しません」
「あぁ?」
「このことは、必ず公にします。私がどのような仕打ちを受けようとも……必ず貴方のことを裁き、シクロくんの冤罪を証明してみせます」
「ハハハッ! なに言ってんだよ、お前バカなの? 今さらもう遅いっての!!」
マリアの宣言を受けても、レイヴンは焦るどころか笑うばかりだった。
「俺は、勇者だぞ? しかも公爵家の嫡男様だ。そこらの平民が一匹冤罪で裁かれたぐらいで、誰が動くってんだよ?」
「くっ……けれど、民衆が真実を知ればッ!!」
「民衆はバカだよ。お前一人で何を騒いだってどうとでもなる。そもそも――冤罪を訴えるなら、そのシクロってやつが『生きて』なきゃいけねぇだろ。公爵ともあろうものが喧嘩を吹っかけられて――冤罪が証明されるまでの間に、犯罪奴隷がダンジョンで死体にならずに済むわけねえんだよなぁ?」
つまり――いざとなればシクロを殺すということ。そうすれば、冤罪被害を訴える被害者は居ない。
冤罪があったといくらマリアが騒いだところで、所詮は部外者。裁判も出来なければ、何ら公的な判断を下すことの出来る立場に無い。
よって、シクロが犯罪奴隷として裁かれた時点で、既に詰んでいたのだ。
「そん……な……」
「ハハハッ! まあ、そう悔しがるなよ! テメェは中々に抱き心地は良かったからなぁ! これからも肉便器として使ってやるから、喜べよ? 前に抱いてやった時みてぇによぉ!!」
「うっ……」
言われ、マリアは思い出す。
レイヴンに慰められ、レイヴンに恋をして――その後、レイヴンと夜を共にし、行為に及んだことがあった。
それも一度や二度ではない。
何度もマリアはレイヴンに抱かれ……その度に『愛する』男に抱かれる幸せのあまり、恥ずかしい言葉を口にし、乱れた。
そんな――薄汚れた、最悪な自分の行いを思い返し、マリアは吐き気に見舞われる。
「うっ、ぐぅっ……」
吐きそうになりながらも、口を押さえ、どうにか耐えるマリア。
この男、レイヴンの前でこれ以上の醜態を晒したくは無かった。
また、自分には境遇を嘆く権利など無いとも思っていた。
シクロを裏切り、追い詰め、信じることもせず。
いつか迎えにくると言ってくれた愛しい人を見捨てて……外道を相手に身体を開いてしまった。
それは、自分に対する罰である、ともマリアには思えた。
大切な人を地獄に貶したのだから……それだけの報いを受けるのは、当然だと考えた。
故に――これ以降、マリアはレイヴンに逆らうようなことをしなかった。
まるで自ら罰を求めるかのように――レイヴンに求められたなら、それがどのような内容であろうとも応じることとなった。