06 あの時の真実
「……聖女様の寄付、ですか?」
司祭は眉を顰める。
「それは前任者の、横領の為の方便ではなく? 聖女様自身が望んだ寄付だということですか?」
「……はい。私は、彼に寄付の手続きを任せていました。お金だけではなく、手紙も届けてもらいたかったので。そちらと合わせて任せていたつもりでした」
マリアは、急に目眩がするような感覚に陥る。
お願いだから――ちゃんと寄付はされていたと、言ってほしい。そんな心境であった。
だが、そんなマリアの願いは叶わない。
「……申し訳有りませんが。聖女様がこれまでに、例の前任者の口座以外に寄付をしたという事実はございません」
司祭の言葉に、マリアは愕然とする。
つまり――自分は、シクロに送金などしていなかったのだ。
それが分かった途端、マリアの目の前が真っ暗となる。
「……これは、またとんでもない事態となりましたな。急ぎ、詳細を確認いたします!」
「はい……お願いします……」
震える声で返事をするマリア。司祭二人は、前任者の余罪がさらに判明したことにより、慌ててマリアの部屋を出ていく。
こうして――マリアは、自身がシクロに対して一度も送金していなかったという事実を知った。
後の調査により――前任者は、マリアから送金と手紙の送付を任されたことにより、今回の横領を思いついたとのことであった。
手紙は前任者が勝手に破棄。シクロとの面会は、マリアの実家の要望もあり禁止されていたこともあり、バレないだろうと判断。
以後、マリアが送金と手紙の送付を頼む度、手続きを誤魔化して自身の口座に振り込んでいた。
そうした事実を知り――マリアは後悔に苛まれる。
シクロを責めたこと。お金も手紙も受け取っていないという証言を否定したこと。そして……シクロを一切、信じなかったこと。
あの日の裁判のことを思い出し、陰鬱な気分となり、何度も吐いた。
自分が、無実の罪でシクロを裁いたのだと。そう理解した。
そして数日後――勇者が王都に帰還した、と報告を受ける。
この時ようやく、マリアは思い出した。
そもそも――あの裁判の話は、どこから聞いたのか?
シクロがゴロツキに金をバラ撒いていた、という証拠を探していたのは?
マリアからシクロに送金していた、という証拠を……ありもしないものをどこからともなく持ち出してきたのは?
すべて――勇者レイヴン=クロウハートに他ならない。
まさか、という疑いがマリアの頭の中にうかぶ。
そして、同時に信じたいという気持ちも湧き上がる。
状況的に――レイヴンが、シクロの冤罪を助長したのは間違いない。
けれど同時に、辛い時、苦しい時の自分を支えてくれたレイヴンの微笑みもマリアは思い返す。
どちらを信じてよいのか分からず――マリアは、直接レイヴンに問いただすことに決めた。
そして――レイヴンは問い詰められ、こう言ったのだ。
「――今さら気づいたのか? バカなやつだな」
ニヤリ、といやらしく笑みを浮かべながらの言葉であった。