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05 聖女の現在




 この日も、聖女マリア=フローレンスは修行の一環として、教会にて祈りを捧げていた。

 勇者は不在。現在は勇者としての役割を果たすため――魔王の国、ルストガルド帝国の魔の手に脅かされている地域へと遠征に向かっていた。


 聖女であるマリアは、やがて来る魔王との決戦の時の為、こうして修行をしているのだ。

 その時が来たら、勇者と共にルストガルド帝国へと向かい、共に魔王を討つ。


 そのためにも――そして、今や愛する人となった勇者レイヴンの力となる為にも、マリアは修行に励んでいた。


「――レイヴン様」


 無意識のうちに、勇者の名前を呼んでしまうマリア。恥ずかしくなり、頬が赤く染まる。

 そして今日はもうこれ以上集中できないと悟り、祈りの修行はここまでで切り上げることにした。




 そうして――自室に戻ったマリアだが、少し経つと部屋を何者かが尋ねてくる。

 ノックする音に気づき、マリアは顔を向ける。


「どちら様ですか?」

「聖女様。お伝えしたいことがあり参りました」

「では、どうぞ。入ってください」


 マリアに許可され、部屋に入ってくる二名の司祭。


「聖女様。実はこの度、聖女様の補佐を担当する者が変更となりましたので、その旨をお伝えに上がりました」

「始めまして、聖女様。今後、私めが新しく補佐に回ります」

「そうですか。なんだか、急なお話ですね。何かあったのですか?」


 突然のことであった為、不思議に思ったマリアは尋ねる。


「ええ。実は、前任の補佐を任されていた者が不正を働いていたことが発覚致しました」

「不正、ですか? そんなことをするような人には見えませんでしたが……」

「人は見かけによらぬものです」


 まさかの展開に驚くマリア。司祭は続けて、マリアに事情の詳細を伝えていく。


「前任者は、以前から小さな不正に手を染めていたようでして。報告書の改ざんなどを駆使し、聖女様の補佐に任命されるような立場まで上り詰めたようです。そして……補佐となって以降は、聖女様の『個人予算』、そして教会から聖女様の『活動費』を騙し取り、多額の資金を横領していた疑いが持たれています」


 個人予算とは、聖女であるマリアが個人的に使うことの出来る予算――言ってしまえば、給料のようなものである。教会という性質上、そうした支払い方が出来ないため、予算を個人に預ける、という形で給与を支払っている。

 そして活動費とは、聖女としてマリアが活動する上で必要な経費のこと。


 これらを騙し取っていたとなれば、その金額は計り知れないものになる。


「……そうだったのですか。それは、とても残念です」


 自分も騙され、利用されていたというのもあり、マリアは悲しさに顔を俯ける。


「現在は容疑の段階に過ぎませんが、証拠も揃っていますので彼が裁きを受けるのは確実でしょう。――いずれ、彼が正式に不正の犯人として確定した暁には、横領されていた聖女様の個人予算も返還されます」

「ええ、分かりました」


 マリアが頷き、これで話は終わりとなった。

 報告はこれで終わりである為、以後、司祭二人は世間話とばかりに話を続ける。

 というのも――この二人の司祭、前任者の司祭とは異なる派閥に所属しており、これまで聖女との縁が薄く、立場が弱かったのだ。


 これをチャンスとばかりに、聖女様の覚えが良くなるように必死なのだ。


「――聖女様。今後はこのようなことが起こらぬよう、我々の方でも十分に対策してまいりますので安心してくださいませ」

「対策、ですか?」

「ええ。活動費の横領は、報告書の内容を厳格、厳密化することで対策してまいります。そして、個人予算の横領は、同じ手口が使われぬよう、各所に警戒するよう通達致しました」

「その手口、というのはどのようなものだったのですか?」


 ここで初めて、マリアは自身のお金がどのようにして掠め取られたのかについて興味を向ける。


「今にして思えば単純なものです。――聖女様から市民への寄付の要請があった、という建前を使い、その振込先に自分で作った偽名の冒険者としての口座に振り込む、という手口ですよ」

「……えっ?」


 司祭が口にした手口は、マリアにとって馴染みのある内容であった。

 何しろ――実際にマリア自身が、その寄付を頼んでいたのだから。


「聖女様ともなれば、市民の運営する孤児院等に寄付することもありうると誰もが考えます。そして、誰もわざわざ振込先の詳細など調べはしませんでした。そのため、明らかに不自然な口座に、何度も聖女様の名義で振り込みが成されていても、誰も気付かなかったのです」


 その話を聞いて、マリアは混乱する。

 実際に、自分は寄付をしていた。シクロという一般市民、一個人に。

 それが前例となった為、詐欺に利用されたのか? それとも――。


 嫌な想像が、マリアの脳裏に浮かんだ。


「今後は聖女様からの振り込みが発生する場合は、相手側のことを確認した上で処理をするよう、各所に通達し――」

「――あの、一つ聞きたいことがあるのですが」


 マリアは、最もありえない――あってはならないことを尋ねる。


「私が頼んでいた寄付は――ちゃんと振り込んでもらえていたのですか?」


 そう――シクロへの個人的な寄付が、まさか横領されていたなどということは、あってはならないことなのだ。

お読みいただきありがとうございます!


本日の連続投稿はこの話で終わりです。

明日からも1日7回、9月5日まで連続投稿が続きますので、是非お楽しみください!


この作品を面白いと思っていただけた方、もっと読みたい! と思っていただけた方は、よろしければブックマークをして評価ポイントの方をポチっと押していただければ嬉しいです!



※追記※


意見を受けまして、タグの方を『一部寝取られ要素有り』にして、『ヒロインのNTR無し』タグを追加しておきました。

つまりそういうことです。

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― 新着の感想 ―
What a mess
桜霧琥珀 先生  一感想をお汲みくださり、誠にかたじけなく存じます。 今後ともこの物語に続きをとても楽しみにお待ち申し上げます。
性暴力の被害者を「他人とヤル女」、って…酷すぎるような
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