03 現在の賢者
「――これで、終わりよッ! 『フレイムノヴァ』!!」
賢者とも呼ばれる天才少女――アリス=オーウェンは炎属性の上位魔法を放つ。
炎は標的である巨大な魔物、ブラックブラッドグリズリーへと集合していく。
そして炎が十分に集まった瞬間――爆発。
炎の熱と爆発の衝撃により、冒険者ギルドでは脅威度Aランク上位に認定されているブラックブラッドグリズリーは、焼き尽くされ、弾け飛んだ。
後に残るのは、かつて魔物であったものの残骸だけである。
「ふう……これで、遠征依頼は全部終わりね」
アリスはようやく一息つける、といった様子でつぶやく。
現在、アリスは冒険者ギルドの要請により、国内各地で高難度すぎるあまり長期間放置されていた依頼を解決する為の『遠征』に出ていた。
かれこれ半年もの間、アリスはギルドの要請に従い、各地へと奔走していたのだ。
だが、その甲斐もあり、脅威度Aランク相当の非常に危険な魔物は、各地で討伐され、大きく数を減らすこととなった。
当然、それに応じてアリスに支払われる報酬も莫大な金額となる。
「お疲れさまでした、アリス様。これで王都に帰れますね」
そう声を掛けたのは、アリスの仕事の手伝いをする為にギルドから付けられたマネージャーの女性。
「そうね。長かったけど、報酬もその分すごい金額だもの。頑張った甲斐があったわね」
「そうですね。……アリス様。もしかして、今回の報酬も?」
「うん。半分はお兄ちゃんに仕送りするわ」
アリスの発言に、マネージャーはため息を吐く。
「こんなに頑張ったのはアリス様なんですから、なにも半分も渡さなくたって……。それに、お兄さんはその、アレな人なんですよね?」
「ふふん、そうよ! お兄ちゃんったら、ダメダメなスキルを手に入れちゃったせいで、私が仕送りしてあげなきゃいけないぐらいダメダメなんだから! 私が頑張らないと、生活も出来ないんだもの! 半分でも足りないぐらいだわ!」
と、アリスは自分の行いを説明する。
実は――アリスは元々、家族を養うお金を目当てに、冒険者ギルドのギルドマスターの養女となったのだ。
そうすることで高額、高難度の依頼を優先的に回してもらい、送金する。そうして――不幸にもスキルに恵まれなかった兄を助けるのが、アリスの目的だった。
しかし、アリスの難儀な性格が災いし、正直なところは誰にも言うことが出来なかった。
結果として、今回のような兄の悪口を言うような形で照れ隠しをするのがほとんどだった。
だが、そんなアリスの照れ隠しを理解し、裏の意味を理解してくれる人間など、せいぜいシクロぐらいなもの。
今回も、マネージャーはアリスの発言を聞き、それだけのお金を使い潰す、ギャンブルや遊びに呆けているクズなのだろう、という想像を働かせる結果となった。
こうして、アリスは自分でも知らずのうちに、冒険者ギルド内にて自身の最愛の兄の悪評を広めていたのだった。