01 時計使いの目覚め
――シクロは、頬に触れる冷たい水の感覚で、目を覚ました。
「うっ……ボクは……そうか、あの時、力の使いすぎで意識を失ったのか」
まだわずかに痛む頭を押さえながら、シクロはゆっくりと身体を起こす。
そして、洞穴の出入り口の先に倒れる、人面の怪物の死体を見て笑う。
「はははっ、夢じゃないっ! ボクがやったんだ! こいつを、時計使いのボクがッ!!」
再び興奮がぶり返してくるシクロ。だが、すぐに頭痛が酷くなったため、慌てて意識的に落ち着く。
「……それにしても、これで希望は見えた。脱出出来るぞ、このダンジョンを」
シクロは呟く。
実際、あの怪物すら一人で倒してみせたのだから――やりようによっては、シクロがダンジョンから脱出することも不可能ではないと言えた。
しかし、それはあくまでも希望。まだ可能性の段階でしか無い。
「そのためにも――もっと、スキルと、ボク自身を鍛え上げないと」
そう。今のシクロの実力では、細い細い可能性に過ぎない。
倒したと言っても、安全地帯から一方的に、一匹だけ倒したにすぎない。
しかもその後は、力の使いすぎで倒れてしまう始末。
こんな状態では――もしもこの洞穴を出てしまったら、すぐにでも人面の怪物の餌食となってしまうだろう。
だからシクロは決意する。
「――よしっ! まずはこの洞穴で、じっくりスキルの練度を上げていかないとな! それに、ボク自身の体力作り……筋トレもしていかないと!」
そう。シクロは、この洞穴に引きこもり、自らを鍛えることにしたのだ。
栄養状態は『腹時計』の『時計停止』により最高状態を維持できる。そして水は十分に流れており、いつでも補給できる。
この環境なら――シクロは、いくらでもこの洞穴にこもっていられるのだ。
そして時計職人時代。シクロはそうした地道な、長時間の作業や努力を得意としていた。
たとえ何日、何週間、何ヶ月でも。
自分で納得できるまで、この洞穴に引きこもるつもりであった。
「となれば……そうだな、予定はしっかり書き出しといた方がいいかな。『時計生成』!」
シクロは言って、小さな金属製の尖った棒を生み出す。
そして――壁面に向かって引っ掻くようにして、文字を書き始める。
☆直近の目標!
1:筋トレする!
2:時計使いのスキルを鍛える!
「……よし。後は、修行の記録もしっかり付けといた方がいいかな。後から見返して、そういうのが分かると便利だし――」
等と言って、シクロはさらに壁に向かって色々と書き込み続ける。
元々凝り性なシクロは、こうして修行を始めるまで、壁に何やら書き込み続けて数時間の時を過ごすのであった。