10 職人ギルドの現在
さらに同時期。シクロを追放した職人ギルドの、ギルドマスター室にて。
「さて――お前を呼んだのは他でもない。これから任せたい仕事についての話だ」
「ああ。分かってるよ父さん。だからあの無能、シクロを追い出したんだろう?」
そんな会話をしているのは、ギルドマスターのロウ=ショートック。
そしてロウの息子であり、シクロに天才少年技師という座を奪われ、日の目を見ることがなかったという経歴を持つ男、コウ=ショートックであった。
「さて、何のことかな? 私はあくまでも、無能は無能だから解雇しただけだ。そうした私情を挟む余地など全く無かったよ」
「ははは、よく言うよ。ノリノリだったくせに」
ニヤニヤと笑いながら、シクロを追放した時の陰謀について、話を続ける二人。
「まあ、それはともかく、だ。シクロが辞めたことで、我が職人ギルドが抱えている仕事の一つ、王宮の古時計の定期点検をする者が居なくなった。誰かに任せねばならないが、半端な職人には任せられない」
「そこで僕の出番ってわけだね。スキル『器用』の持ち主であり、あらゆる職人としての技術を学んだ天才技師である、この僕の!」
「うむ、そのとおりだ」
コウの自慢するような言葉に、ロウは否定もせず頷く。
「そして――この改革は始まりに過ぎない。これを皮切りに、これまで一部の『職業スキル』持ちに任せていた仕事――いや、任せざるを得なかった仕事を、優秀な職人だけで回していく。そしてその他の半端な仕事は、適当な安い職人を当てて人件費を削減」
「そうやって安い下っ端と、一部の上層部だけで仕事を独占。半端な優秀さしか持ち合わせていないくせして、技術料はしっかり貰っていく上、他の仕事はできない『職業スキル』持ちや専門の職人を解雇していく。そうすることで僕たちはさらに権力を増して、ギルドの資金繰りは好転し――職人ギルドは繁栄するって寸法だね?」
「そのとおりだ、我が息子よ」
二人は『職業スキル』持ちに対する差別的な意識を隠そうともせず、会話を続けていた。
こうした反応は特別珍しいわけでもない。この国では職業スキル持ちの仕事は法律で定められている。給料も一般の職人より高く保証されている。
そうした理由から、職業スキル持ちを差別的に見る者も少なくは無い。
そして――他ならぬロウ及びコウもその同類であり、職人ギルド内でそうした思想による統制、支配をしようと目論んでいるのであった。
「だが――この計画の為には、王宮の古時計の定期点検も成功させねばならない。その点は、問題ないのだな?」
「もちろんだよ、父さん」
コウは自信ありげに頷く。
「機械式の時計の構造については勉強済みだし、修理の経験も十分にある。それが王宮のものに変わるだけで、何の問題も無いさ」
「なるほど。それなら問題無いな」
「それに、向こうはどうせ素人。ちょっと失敗したぐらいなら、適当な理由をつけて誤魔化せばどうとでもなるさ」
「ははは! 悪どいな、さすが我が息子だ!」
等と、酷い会話を繰り広げるショートック親子。
まさか――この選択が地獄に真っ逆さまに落ちてゆく切っ掛けになるとは、この時はまるで知らない二人であった。
お読みいただきありがとうございます!
このお話で第二章は終わりです。
次回から、本格的なざまぁと無双が始まる第三章となります!
そして、本日の連続投稿はこの話で終わりです。
明後日の9月5日まで1日4回の連続投稿が続きますので、是非お楽しみください!
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