09 聖女と勇者の現在
さらに同時刻の、教会にて。
祈りを捧げる聖女マリアに、勇者レイヴンが付き添っていた。
「……終わりました。レイヴン様」
「ああ。今日はもういいのかい?」
「はい。……もう、無事を祈る人も、居ませんから」
寂しげに言うマリア。その肩を、優しく抱きとめるレイヴン。
「俺に何が出来るか分からないけれど……マリア。君が元の笑顔を取り戻してくれるように、俺も頑張るよ」
「……はい。ありがとうございます、レイヴン様。貴方が、そう言ってくれるだけで私は――」
マリアは、うっかり聖女としてあるまじき、一介の少女のような言葉を口にしそうになり、黙り込む。
そんなマリアを見て――卑しい本性を見事に隠しながら、優しげに微笑むレイヴン。
「俺はマリアが幸せでいてくれるなら、それでいいよ」
「レイヴン様――ありがとうございます」
(……そんなわけねーだろこのアマ。とっとと股開きやがれっつうの)
頭の中ではとんでもないことを考えながらも、レイヴンは表面上、好青年を見事に演じていた。
シクロが強姦魔として裁かれて以降――レイヴンとマリアの仲は急激に縮まっていた。
元々、レイヴンはクロウハート公爵家の子息というのもあり、婚約者が二人も存在する。
そんな二人どちらともイチャイチャするレイヴンを、マリアは節操の無い人だとどこか苦手意識を持っていた。
しかし――今ではそんな意識など微塵も無い。
むしろ、二人の女性をしっかり大切にし、守ることの出来る、二倍の甲斐性がある男性だと尊敬してすらいた。
また――仕事の都合上、レイヴンの婚約者二人とマリアは会うことも多く、その都度レイヴンがいかに素晴らしいか、という惚気話を聞かされてきた。
そんな日々が続くうちに――シクロとのこともあり、マリアはレイヴンのことが気になり始めていた。
シクロが辺境送りとなった今では、すっかりレイブンに慰めてもらうことが当たり前となり、マリア自身もレイヴンの恋人気分でいた。
そんな二人の関係は有名であり、王都ではすっかり二人の噂が広まりきっていた。
勇者レイヴンの新たな婚約発表も秒読みか、とまで言われている。
だが――マリアは知らない。
そんなレイヴンの本性が――まさか『強姦魔シクロ』と同等か、それ以上のゲス野郎だなんて。
レイヴンはこれまで、幾多の人間を、自分の都合で破滅に追いやってきた。
女が欲しければ金と権力で無理やり抱いたし、邪魔な男が居たら破滅させてきた。
冤罪で犯罪者として裁いた数も一度や二度では済まない。
そうした悪どい手口を重ねてきた中でも、レイヴンと同様に腹黒く、悪どい本性を持ち、気の合った女こそが現在の婚約者二人。
つまりレイヴンと婚約者の二人はグルなのだ。
まさか、レイヴンの婚約者である二人までもが悪人であり、自分を騙し、貶めようとしているとはつゆ知らず。
マリアはすっかり、レイヴンという架空の好青年にお熱となっていた。
タグの方に、若干寝取られ要素ありと追記することにしました。
ヒロインが寝取られることは無いのですが、いちおうざまぁ対象がひどい目に遭う過程で主人公以外といろいろありますので。





