04 人面の魔物
シクロは息を潜めながら、人面の怪物を観察する。
何かを探るような手の動きは、特に定まった動きはしていない。シクロの居る方向とは関係のない方向を探っている。
その為、シクロの存在に気付いているわけでは無いようだった。
(あの動きは……何を探しているんだろう?)
不思議に思うシクロの目の前で、すぐにその答えが見つかる。
不意に怪物が動きを止め、目にも留まらぬ速さで駆け出したのだ。
尋常ではない速さで駆けた怪物は、瞬きするほどの間に――離れた位置に隠れていた、カエルのような姿をした魔物に襲いかかっていた。
周囲を観察していたシクロでさえ、気づかなかったほどの擬態。まるで岩のような皮膚をしたカエルに、怪物は何らかの方法で気付いたのだ。
そして、襲われたカエルですら、シクロよりもずっと大きく見える巨体を持つ魔物であった。
そんな化け物をあっさり蹂躙する、さらに格上の化け物。
人面の怪物は触手を突き刺し、カエルの自由を奪う。そのまま腕で抱きかかえるようにして――その巨大な顔面へと近づける。
すると、人間の顔だと思っていた部分が大きく割れて――中から口が現れる。
縦にぱっかりと割れた巨大な口は、さらに伸縮性もあるようで、ぐにぐにと伸び、そのままカエルを丸呑みにしてしまう。
そして、ぐちゃぐちゃと咀嚼音を立てながらカエルを味わう。
(……ヤバい、ヤバすぎる……あんなの、どうしろっていうんだよ)
シクロは恐怖に身体が震える。
それだけ人面の怪物の捕食シーンは不気味であり、かつ圧倒的であった。
もしも自分が狙われたら――それを想像してしまい、シクロは恐怖した。
そして――恐怖のあまり、一匹の魔物に集中しすぎてしまっていた。
だからシクロは、もう一匹の魔物が、闇の中から近づいて来ていることに、気付かなかった。
「――くこここ、くここここ」
奇妙な鳴き声が聞こえ、シクロはハッとする。
慌てて声のした方を見ると――さらに新手の、人面の怪物が一匹。
今度は手で探るような仕草を、しっかりシクロの方へと向けていた。
そして、その表情は醜悪な笑みに歪んでいた。
まるで――絶好の得物でも見つけたかのように。
(見つかった!?)
シクロは慌てて、逃げる算段を立てる。
走って逃げても間に合わない。立ち向かうなどもってのほか。
となれば――どこかに身を隠して、安全を確保するべきだった。
(とにかく、どこか隠れるところは――ッ!)
姿勢を低くして、岩場の陰に隠れつつ周囲を見回すシクロ。
幸い、まだ怪物はシクロの位置を完全に特定していないらしく、手で探るような動きを続けていた。
この間に、どこかに隠れることが出来れば助かるかもしれない。
僅かな希望にすがるシクロの目には――まさにその為に作られたかのような、小さな横穴があるのが見えた。
渓流から枝分かれした水の流れが侵食して作った、小さな洞穴らしく。その大きさは、シクロ一人がかろうじて入れる程度のもの。
(ここだっ! 早く入らないと――)
シクロはなりふり構わず、その洞穴に身を投じる。
中に何かいるかも知れない。しかし、それでも人面の怪物に黙って食われるよりはずっと良い。
そして――間髪入れずに、人面の怪物が動き出す。
シクロが洞穴に姿を隠した瞬間、シクロが先程まで立っていた場所に飛びかかる。
無数の触手が岩場を叩くが、そこには既に標的は居ない。
怪物は首をかしげ、周囲を探るように腕を動かす。
どうやらこの人面の怪物は、視覚ではない何らかの感覚を腕に持っており、それを使って得物を認識している様子だった。
そして――その感覚はかなり鋭いらしく、洞穴に隠れたシクロをすぐに発見する。
「くこここっ」
鳴き声を上げ、ゆっくりと洞穴に近づく怪物。
蠢く触手が、シクロを捉えようと洞穴の中へと伸びる。
(ヤバいヤバいヤバい!!)
シクロは洞穴の中で身体を縮こまらせながらも、必死に奥へと進み、触手から逃げる。
やがて触手が届かない距離まで逃げ切って――ようやく立ち止まるシクロ。
「……はは、ここならもう捕まえられないだろ?」
安堵から、ついそんな声を漏らすシクロ。
「くここ――」
怪物は触手を蠢かせながら、残念そうに鳴き声を上げるのであった。
感想に寝取られタグがあったほうがいいかという話がありましたが、寝取られるのはハーレムの一員でもないざまぁ要員のキャラのみなので無しでいいかと考えていました。
が、それでも一応は寝取られる?キャラがいるので、タグに書き加えようかと思っています。
ただ、寝取られというジャンル、属性がメインでもないのでその部分で詐欺タグにならないか心配でもあります。
なので、とりあえず今日は様子見して、もし寝取られタグは不要だというご意見が感想欄でたくさん頂けるようでしたら無しにしておこうかと思います。
というわけで、もし不要だと思われる方が居ましたら感想で報告頂けると嬉しく思います!