19 ディアブロ戦、決着
「さて、そろそろ決着を付けましょうか」
スターライトは言うと、巨大ハンマーを片手で掲げる。
「フルパワーッ!」
すると、巨大ハンマーが形状を変化。
片方からジェットエンジンの様なノズルが出現し、もう片方の打撃面が角か何かのように鋭く尖る。
「スターライトぉぉおお……っ!!」
これを振りかぶり、その場で回転するように振り回すスターライト。
すると、ノズル部分からエネルギーが噴出し、スターライトを軸にして高速で回転を始める。
そして――弾けた!
「――ギガンテック、インパクトォッ!!」
高速回転する巨大ハンマーが開放され、ディアブロを叩き潰すように衝突する。
途端ズドン、とまるで爆発でも起こったような衝撃波と、直視が出来ないほどの眩い光が溢れる。
すぐに光は収まったが――そこには、原型を止めないほどバラバラに破壊されたディアブロが残されていた。
胴体がぐちゃぐちゃに潰れ、手足は四方八方へと飛び散り、頭部も辛うじて繋がっている程度の状態。
だが、それでもまだ生きてはいるのか。
目が鈍く点滅しており、再生も試みているらしく、ズリズリと頭部と胴体が集合しようとしている。
とはいえ、明らかに瀕死の状態であった。
「耐久力だけは一人前だったみたいですね? けれど、次の一撃で終わりに――」
再び攻撃を加えようと構えるスターライト。
だが、異変が起こる。
スターライトが融合した時と同じ光が発生。
身体を包み込むと――光が2つに分かれる。
そして光が弾けて消えると、そこにはシクロとミストの姿が。
なんと、スターライトから元の状態に戻ってしまったのだ。
「あっ!」
アリスが声を上げる。
「ごめん二人とも! ユニコンを使って引き起こせる融合状態、プリズムユニゾンは本当に短い時間しか維持できないの!」
「何だって!?」
「それにプリズムユニゾンは、もう一度出来るようになるまで三十分のクールタイムが必要なの!」
「ってことは……!?」
シクロとミストの視線が同じ方向へ集まる。
そこには、恨みがましく目を明滅させながらも、非常にゆっくりと再生を続けるディアブロがあった。
「――何でも良い! とにかくアイツをぶっ壊せ!!」
シクロの掛け声で、全員が慌てて攻撃を開始する。
「紅焔剣舞、六連ッ!!」
「マスターエレメントッ!!」
「ホーリースターズッ!!」
カリムの生み出した炎の剣が、次々とディアブロの残骸に突き刺さる。
そして炎の壁を生み出した時と近い要領で、今回は焼き尽くすための炎が溢れ出る。
続けてアリスの生み出した、元素魔法のそれぞれの属性に対応した球体がディアブロに向かって集合。
一箇所に集まると、互いの反作用で炸裂し、複雑かつ強力な魔力の本流がディアブロの残骸を飲み込む。
さらにミストの魔法。光の魔力によって生み出された二つの球体が、ディアブロの周囲を回転する。
すると、互いの魔力が作用し、光の魔力の渦が生まれ、ディアブロの残骸を引き裂く。
現在の三人がそれぞれ使える最大級の破壊力を持った攻撃であった。
だが――ディアブロの残骸ですら、これでも完全消滅には至らない。
「――皆、後は任せてくれ!」
この隙に、攻撃の準備を進めていたシクロが宣言する。
「AOC、起動ッ!!」
シクロの最大限を詰め込んだ戦闘形態。
強化外骨格型魔導鎧、AOCが起動する。
だが――今回はそれだけで終わらない。
「Style.Magienticaッ!!」
更に形態変化を行うための宣言。
これを受けて、AOCは変化。
さながら――DEMのようなドローンスラスターが背部に装着される。
これがシクロの新兵器。
AOC.Style.Magienticaである。
ドローンスラスターのエンジンには、魔力縮退炉を利用するDEMとは異なり、出力では劣るが安定的で使いやすく、小型化のしやすい『魔力融合炉』を採用。
これにより、AOCにもDEMと同様の機能を、人間サイズで実装することに成功した。
アリスの秘密兵器、プリズムユニゾンとは別口で、今のような事態に備えて設計していた形態である。
「フルバーストだッ!! フランヴェルジュ、Mode:Cannonadeォォオオオッ!!」
シクロは『時計生成』にて高火力大口径砲、フランベルジュを生成。
これをAOCと接続し――さらに全てのドローンスラスターがフランベルジュへと接続。
これによりAOC本体の出力に加え、ドローンスラスターに搭載された計六つの魔力融合炉のエネルギーもフランベルジュへと送られることになる。
「消し飛ばすッ!! 皆はディアブロの動きを抑えてくれッ!」
シクロの頼みに、三人が合わせて頷く。
「炎陣縛封ッ!」
「エアプレッシャー!」
「サンクチュアリ!」
それぞれが異なる手段で、再生を続けるディアブロを抑え込もうとする。
だが――ディアブロも座して死を待つわけではない。
残るエネルギーを全て使い果たす勢いで、近くに散らばる残骸だけで身体を再構成。
ふた周りは小さな身体になりながらも、再生に成功。
三人の拘束から逃れようと、一歩、また一歩と動き始める。
「アカン、シクロはんのチャージより先に動き始めてまうでッ!!」
「ご主人さま、早く!」
「悪い、あと少しなんだッ!」
焦るカリム、ミスト、そしてシクロ。
だがアリスだけが――思わぬ発想で打開策を講じた。
「いけっ! ぺぺ君!」
「くおんッ!?」
なんとアリスは、足元で部外者ヅラをしていたぺぺもすを蹴り飛ばした!
ぺぺもすのまん丸な肉体が、ちょうどディアブロの踏み出す一歩の真下へ入り込み――。
ずるっ!! と、すっ転ばせた!
「くおおおおんっ!!」
何をするんだ、と怒りの声を上げるぺぺもすは、ディアブロの転んだ勢いでそのまま吹っ飛び、壁に追突。
しっかりアリスの魔力で保護されていた為、無傷で済んでいた。
「ナイスだ、ぺぺもす!!」
そして――いよいよチャージが完了する。
「――焼ぁぁああき、尽ぅくせぇぇぇぇええええッ!!」
フランベルジュの砲身から、膨大なエネルギーが開放される。
極限まで高まったエネルギー輻射は、光すら飲み込む黒いラインとなってディアブロを襲った。
着弾。
同時に――闇色の爆裂。
キィン、と静かな音だけが響く。
限界を超えた超エネルギーによる爆発であった為、音の伝わる大気すら燃やし尽くしてしまった為だった。
だが、次の瞬間には収束していたエネルギーが開放される。
ドゴォオッ!! と、轟音が響くと共に、真っ白な光が広がった。
その反動で――身構えていたはずの三人、カリム、アリス、ミストすら吹き飛ばされる。
十分離れていたはずのぺぺもすも、ゴロゴロと部屋の隅まで転がっていく。
そして――光が収まった後には。
再生したはずのディアブロの身体が、跡形もなく消え去っていた。
どころか、直線上にある床や壁まで焼き尽くされ、まるで削り取ったように消滅していた。
最後に、四方八方に飛び散っていたディアブロの身体が、サラサラと光の砂となって崩れ、消滅していく。
「――ボク達の、勝ちだァッ!!」
グッと拳を突き上げ、勝鬨を上げるシクロ。
こうして人型魔導決戦兵器『ディアブロ』との戦いは――そして魔王城の攻略は、終わりを迎えたのであった。
今回の章はここまでで終了となります。
次の章も、可能な限り早く書き上げるつもりですので、お待ちいただけると幸いです。