02 天才少年シクロ
「――それじゃあ母さん、行ってきます!」
元気よく声を上げたのは、当時十六歳のシクロ。
「寄り道せずに帰ってくるのよ?」
そんなシクロを見送る母――サリナ=オーウェン。
そして、シクロの後を追いかける少女が一人。
「もう、お兄ちゃん! 待ってよぉ!」
シクロと歳の頃が変わらないこの少女こそ。シクロの妹、アリス=オーウェン。
この日――シクロは『スキル授与の儀式』を受ける為、街の教会へと向かっていた。
スキル授与の儀式とは、言葉の通りスキルをスキル選定の神に祈りを捧げることで授かる為の儀式だ。
これを、この国ハインブルグ王国では本人が十六歳となる年に受けることになっている。
ちなみに今日は、シクロだけではなく妹のアリスも儀式を受ける。
シクロが早生まれで、アリスが遅生まれなので、二人は同じ年に生まれた兄と妹なのだ。
だから、シクロについてアリスも儀式に向かっている。
「お兄ちゃん! 待ってって言ってるじゃん!」
「はいはい、分かったよアリス」
そもそもゆっくり歩いていたのだけれど、アリスがダダを捏ねるので立ち止まるシクロ。
そしてアリスの方を見ると、今日は気合を入れておしゃれをしている。
中でも、胸元でキラリと光るペンダントが目立っていた。
「アリス。そのペンダントって、もしかして?」
「ふ、ふん! 別に、どうしてもこれがつけたかったわけじゃないんだからね! 特別な日に、一番私に似合うコーデを考えたら、たまたまこれになっただけなんだからっ!」
と、何かに気付いたシクロに、まくしたてるように否定するアリス。
実はこのペンダント。シクロが12歳の時に作った魔道具でもあるのだ。
しかも内容は、身に危険が迫ると、蓄えた魔力でバリアを貼るというもの。一流の魔道具職人が作るような、素晴らしい逸品。
何を隠そうこのシクロ、6歳の時には既に魔道具作りの理論を理解し、実際に簡単なものなら作ってみせたという天才少年なのだ。
それゆえに、職人ギルドで働く多くの大人たちから、将来はきっと素晴らしい職人になるに違いない、と期待されている。
そして、だからこそ。
「――お~い、シクロくんっ!」
「お、マリア! こっちこっち!」
婚約者――マリア=フローレンスがいるのだ。
「ついに来ましたね、スキル選定の儀式の日が。シクロくんがどんなスキルを貰えるのか、私、楽しみです♪」
「あはは。もしそれでハズレスキルなんか貰っちゃったらどうしようかな?」
「そんな、シクロくんほどすごい人がハズレスキルなんて! ありえないですっ!」
「マリアがそう言ってくれるなら、本当に良いスキルがもらえるような気がしてきたよ」
などと、シクロとマリアは仲良く話しながら教会へと向かう。
そんな二人を羨ましそうに、睨みながら後を追いかけるアリス。
シクロとマリアの婚約は、なんと二人が10歳の時に決まった。
マリアの両親はフローレンス商会という大きく有名な商会の創業者でもある。主な商材は職人ギルドから仕入れる魔道具。
だから、シクロのような天才少年とは何が何でも縁を繋ぎたかった。
そんな政略結婚的な理由で婚約した二人だけれど、仲は良好。お互いに好意を抱いているような状態。
何もかも、この時のシクロは順風満帆だった。
そう――あとは、スキル選定の儀で、せめて普通のスキルでも貰えたなら。
それだけで良かったのに。
歯車は狂ってしまうのであった。