17 アリスの秘密兵器
ガキャ、と機械的な駆動音と共に、三メートルはゆうに超えるであろう体躯を持つディアブロがゆっくり動き始める。
「――縫い付けるッ!!」
シクロは言うと、両手にミストルテインを持ち、連射でディアブロを狙う。
無数の弾丸が直撃するが、ディアブロの表面を傷つけることは無い。
どころか、行動を抑えることも出来ない。
ディアブロは静かに前進する。
「チッ。硬そうとは思ったけど!」
シクロの言葉の次に行動したのはアリスであった。
「プロミネンスノヴァ! からのッ!」
アリスの炎魔法が発動。炎がディアブロに目掛けて収束し、爆発。
「アブソリュートロックッ!!」
続けて、氷魔法が発動。
絶対零度の冷気がディアブロの全身を煌めく氷塊で包み込む。
そして氷が弾け――ほぼ無傷のディアブロが姿を表す。
「ウソでしょ!? あの装甲、どんな物性してんのよ!!」
異様な頑丈さにアリスが悲鳴を上げた途端――さらに信じられない事態が発生。
アリスの魔法で表面に付いた僅かな傷を、みるみる内に再生させていくディアブロ。
一瞬にして、無傷の状態に戻ってしまう。
「冗談キツイな……」
「これで鈍亀やったらまだ助かるんやけど」
「ッ――!! 来ます! バリアー!」
次の瞬間。
ミストは咄嗟にバリアーを発動。ディアブロの攻撃に備える。
そして――ディアブロが動く。
シクロでさえ、目で捉えるのが難しい速度で突撃してくるディアブロ。
装甲の硬さに頼った、単純で直線的な体当たり。
だが――効果は絶大。
まるで紙を破るようにミストのバリアーは突破されて――咄嗟にシクロが前に出る。
「――『フレスヴェルグ』ッ!!」
生成するのは、シクロが移動用に開発した二輪自動車両。
この狭い空間で、咄嗟に生成できる最大質量の物体であった。
ディアブロはフレスヴェルグと追突し――粉々に粉砕しながらも、その質量の影響で軌道が逸れる。
ギリギリでシクロ達が巻き込まれることなく済み、ディアブロは壁に追突して止まる。
「どうなってんだよ、あの化け物は」
「くおんっ!」
「騒いでると巻き込まれるぞ、黙ってろ!」
全盛期の自分に近い相手だぞ! と忠告してくるぺぺもす。
「カリム姉! 私に考えがあるの!」
「どうしたらええ!」
「足止めでいいから、ちょっと時間を稼いでほしいの!」
「難しいお願いやなぁ……」
アリスに頼まれ、カリムが前に出る。
「――紅焔剣舞、六連ッ!!」
そして炎の剣が六本生成され、カリムの周囲を舞う。
「続けてェ! 『炎陣縛封』ッ!」
炎の剣はカリムの指示に従うようにディアブロの周囲へと飛来し――正六角形の頂点となるような形で地面へと突き刺さる。
すると六角柱状の炎の壁が地面から舞い上がり、ディアブロを内側に閉じ込める。
「稼げて一分やッ!」
カリムが言うとアリスは頷き、シクロと、そしてミストに向き直る。
「前に言ってたでしょ、DEM以外で戦力アップする新しい理論について」
「まさか、完成してたのか?」
「残念、完成度は90%ぐらいよ」
カリムは言うと、懐から2つの魔道具を取り出す。
それらは――どちらも腕輪型の魔道具で、中央には大きな魔石が備え付けられていた。
「残りの10%は、二人の愛で補って!」
「はぁ!?」
「さあ、この魔道具――ユニゾンコントローラー、略して『ユニコン』を手首に付けるのよ!」
「えっと、あの?」
シクロとミストが困惑している間に、アリスは勝手に二人の手首へ魔道具――ユニコンを装着する。
シクロは左手首。ミストは右手首に。
「細かい説明をする時間は無いから、使い方だけ説明するわ! お兄ちゃんが右に、ミストちゃんが左に立って、ユニコンを付けた腕を前に差し出すの!」
「こ、こうか?」
「こんな感じでしょうか」
言われた通りの立ち位置に二人は移動し、腕を前に差し出す。
「ちょうどユニコンの魔石が合わさるような感じでね!」
「――あかんッ! もう辛抱ならんで、これ!!」
カリムが限界を感じる声を上げる。
実際、ディアブロはカリムの生み出した炎の壁に両腕を突き刺し、少しずつこじ開けようとしていた。
「ギリギリだから、もうぶっつけ本番! 二人で一緒に合言葉を言うの! 息を合わせて、『プリズムユニゾン、スターライトインストール』ってお願い!」
アリスに言われ、よく分からないが、互いに見合って頷くシクロとアリス。
続けて、宣言する。
『プリズムユニゾンッ! スターライト、インストォォオオオオルッ!!』
すると同時に――光が弾けた!