16 人型魔導決戦兵器『ディアブロ』
分かち合えない。納得いかない。
現にこうして、魔神とシクロ達で見解の相違がある。
故に、絶対的な支配者は反抗される。
どころか、納得を伴わない判断の強要が、存在しなかったはずの不和を生む。
それがシクロ達の立場であった。
対して、魔神はそれでも構わないと語った。
人と支配者が争うことになろうとも、人と人の争いが最小限に出来るなら、と。
支配者による人への弾圧は必要悪とさえ語った。
「――ですが、それを人が納得しますか?」
ミストが疑問を投げ掛ける。
「必要悪だからと弾圧されることを、その判断を、人々が受け入れるでしょうか? 私には、受け入れてもらえるようには思えません。ですから、魔王スキルによる人の支配は、納得されることは無いように思えます」
ミストの言葉にも、魔神は揺らぐことなく答える。
「納得の必要は無い。世の為、人の為。望まれずとも、支配してやらねばならぬ。でなければ、人の世に争いは絶えぬ」
「余計なお世話だっつってんだよ」
シクロの言葉に、魔神は問いで返す。
「争いの無い世界を、貴様らは望まぬというのか?」
「ああ、そうだ。望まないね」
はっきりと、シクロは拒絶する。
「無くさなきゃいけないのは悲劇であって、争いそのものや、それを望む心じゃない」
シクロは、過去の出来事を――特に、帝都へと訪れてからの経験を思い返しながら言う。
「たとえ怒りや憎しみ、利己的な願いからくる争いでも、それが無くては生まれないもの、知れなかったものがたくさんある」
十二信将『幻魔』のロックスとの出会いと、白狐族の老婆の語らい。
髑髏仮面の小言と、嘆きの言葉。
シクロが彼らと対話出来たのは、彼らの心に、小さくとも争う衝動があったから。
それが無くては、彼らとシクロが知り合う機会すら無かっただろう。
一方で、彼らが懸命であり、暴力等といった短慮な行動に出ない懸命さがあったからこそ、悲劇的な結末に至らずに済んだ。
どちらか片方だけでも欠けていれば、シクロには知り得なかった世界があったのだ。
「アンタは言ったよな。人は醜い。故に争うって。ボクはそうは思わない。人が争うのは……いや、どんな生き物だって、生きるために争う。その争いを悲劇で終わらせない為の懸命さが、人にはあると思う」
帝都での経験した数々の出来事に、万感の思いを込めて。
シクロは、魔神の理想を切り捨てる。
「争うことが、それを望む人の心こそが力になるんだ。争いは経験に、経験は力になる。人はその力と良心で、悲劇を避けることだって出来る」
シクロの言葉に、魔神は怒りを顕にする。
「所詮は人間か! 大局的な視点を持てぬとは愚かなッ!」
「そうやって部外者が、指導者気取りで結末ばっかり眺めてやがるから分からないんだよ!」
魔神の怒りに、シクロも対抗するように声を上げる。
「争う心を悲劇じゃなくて力に変えるのが人だろッ! 結末しか見ていないアンタの言う支配者様じゃあ、人は生きようとする力さえ奪われる!!」
一触即発。今にも戦いが始まろうとしていた。
ここで魔神は――後退し、ダンジョンコアに手を触れる。
「奪われるのは人の未来。奪うのは私ではなく貴様らだ!」
言って――魔神はダンジョンコアに力を流し込む。
ダンジョンコアは輝きを放ち、少しずつ形を変えてゆく。
「――既に準備は完了している。不自然であったろう? このダンジョンは規模が小さく、魔物も出ない」
魔神は語りながら、ダンジョンコアよりも後方へと下がる。
「長い年月をかけて成長したダンジョンの力を、ほぼ全てコアへと収束。コア自身を、コアを守る守護者として変質させた」
少しずつダンジョンコアが放つ光は収まり――魔神の言う『守護者』の姿が顕になる。
「貴様らのような不届き者が、我が計画を阻もうとした時の為作り上げたッ! その名も、人型魔導決戦兵器『ディアブロ』ッ!!」
そこに存在するものは、人のようにも、虫のようにも見えた。
両手両足があり、二足歩行する人型の物体ながら、表面は昆虫の外骨格のような構造で守られている。
ダンジョンコアが元となった為か、外骨格は無論、体内までも水晶のように透き通っていた。
「殺せッ!! そして人の未来を守るのだッ!!」
魔神の呼び掛けと同時に――ディアブロは起動するかのように目を光らせた。
「フフフ……貴様らもここで終わりだ……」
最後にそれだけ言い残すと、魔神の姿は煙のように滲んで消えた。