14 魔王城攻略開始
結果として――シクロの推測は的中していた。
魔王の指示により、魔王城の人員総出で送風装置を探した結果。
なんと、今は使われなくなって久しい、古い鍛冶場で見つかった。
本来の送風装置は、かなり大型の人力ふいごであった。
はるか昔――帝国成立以前に存在した国のどれかが、文明の発達に伴い鉄の生産量を増やす必要があった。
その為に、魔王城内の広い鍛冶場を利用し、より効率よく送風する為、パイプオルガンの送風装置が移動された。
それが功を奏したのかどうかは不明である。
だが、新しい高効率のふいごを作るよりも、ダンジョン産の素敵なふいごが身近にあったのだから、手っ取り早く鉄を求めていたなら、十分にありえる選択であった。
かくしてパイプオルガンの送風装置は鍛冶場で高品質な鉄を量産する為に活躍し――時代と共に、本来あるべき場所が忘れ去られてしまう。
後の時代、どこかのタイミングでパイプオルガンを弾こうとした者がいたのだろう。
だが、送風装置が無かった。
人手不要で便利な魔道具製の送風装置が新しく作られて――結局、音は鳴らなかった。
元から送風装置が無く、風を送っても音が鳴らないとなれば「このパイプオルガンは壊れている。だから音がならない」と判断されることもおかしくない。
そうして送風装置が原因となった不良は、単なるパイプオルガンの故障として後世に引き継がれることとなった。
――といった経緯があったのだろう、とシクロは推測した。
当然、真実は不明である。
だが、本来の送風装置が鍛冶場で見つかった以上、大枠では似たような経緯があったのだろう、とシクロは考えていた。
何にせよ、問題は取り除かれたのだ。
いよいよ、ダンジョンの入口を開く時が来た。
シクロ達一行。そして十二信将全員が礼拝堂に集まった。
ただ一人、翻転のメアリーだけは、席につかず、ふいごを動かして風を送る仕事を担当していた。
パイプオルガンの演奏を任されたのは、魔王。
「本当に、演奏なんて出来るのか?」
「一度も弾いたことは無いがね。魔王スキルが引き継いできた能力の中には、当然こういったものの演奏能力もある」
と、シクロが少し前に魔王と会話し、確認を取っている。
演奏については、問題なくこなすだろう。
「では――」
魔王はついに、数百年の時を経て、パイプオルガンの音を蘇らせる。
その音色に――響きに、礼拝堂に居る全ての者が一様に息を呑んだ。
豊かで、しかし耳に優しく響く音色。
まるで本物のオーケストラがこの場に招かれたかのように――美しく多様な音が同時に響く。
「すごいな……」
シクロはつい、小さな声で呟いてしまい、後悔した。
自分の声が邪魔に感じるほど、このパイプオルガンの音に聞き入っていたのだ。
そうしてしばらく、誰もが魔王の奏でる曲に聞き入り――気がつけば、終了していた。
誰もが思わず立ち上がり、拍手をしていた。
その時だった。
大きな魔力が動くのを全員が感じる。
魔力は礼拝堂内の――なんとステンドグラスに集まる。
ステンドグラス全体に魔力が行き渡ると、状況が一変。
色とりどりの美しいステンドグラスは見えなくなり、代わりに深い闇が広がる。
ダンジョン内へと通じる、異空間の穴であった。
「ようやく、攻略開始ということかな?」
演奏を終えた魔王が、シクロの方へと歩み寄って言う。
「ああ。任せてくれ」
「幸運を祈る」
二人は握手を交わす。
シクロは仲間に視線を向ける。
ミスト、アリス、カリムは頷いて応えた。
特に視線を向けられていないぺぺもすも自信満々に頷いた。
「行こうみんな。魔王城ダンジョンへ!」
「はい! お力になります!」
「魔神なんか、ちゃちゃっとぶっ飛ばしちゃお!」
「物資の準備も万端や。一ヶ月かて潜ってられるで!」
「くおん!」
言うと、四人は飛び上がる。
ぺぺもすは跳躍力が足りないので、シクロがむんずと掴んで連れて行く。
広がる闇色の穴へと飛び込み――その姿が、礼拝堂から消えた。