01 荷物持ちシクロ
「――とっとと歩け、このクズ!」
「うぐっ!」
冒険者達の荷物を持って歩くシクロを、雇い主である冒険者パーティの一員である男がなじり、蹴り飛ばす。
痛みにうめきながらも、シクロは文句も言わずに荷物を運ぶ。
「ったく、ヒョロガリがよぉ。荷物持ちも満足に出来ねぇとは、噂以上の無能じゃねぇか」
「全くだな。こんなヤツを手伝いに出されたところで、役に立ってるのかもわかりゃしねぇよ」
「確かになぁ。オイ、聞いてんのかクズ! もっとキビキビ歩け!!」
言いたい放題言われながらも、シクロは黙って従う。重い荷物を背負いながら、気力を振り絞って歩くペースを上げる。
どうしてこんな羽目になったのか――シクロは、北の辺境『ノースフォリア』へと到着した直後のことを思い返していた。
数週間かけて、犯罪奴隷としてノースフォリアへと送り届けられたシクロ。
そのまま冒険者ギルドへと引っ張って行かれ、まるで物のように受け渡しが行われる。
「随分と急な補充だが、王都の方で何かあったのか?」
「かなりの罪を犯したらしくてな。教会やらの圧力もあって早く裁きたかったようだぞ」
「なるほど」
冒険者ギルド側の男と、王都から来た騎士との間でそんな会話があった。
その後、ギルド側の男がシクロに目を向ける。
「キサマ、名前は何ていうんだ?」
「……シクロ、です。シクロ=オーウェン」
「オーウェン? どこかで聞いた名前だな……まさかっ!?」
シクロの名前を聞いた途端、男は慌ててこの場を離れる。
そして少し経ってから、もう一人の男を連れてこの場に戻ってくる。
「――君が、犯罪奴隷のシクロ=オーウェンかね?」
「……はい。貴方は?」
「私はノースフォリアの冒険者ギルドを管理している、ギルドマスターだ。君の噂については、よく聞き及んでいるよ」
連れてこられた男はギルドマスターを名乗り、シクロについて知っているような口ぶりで話す。
「……ボクを、知っているんですか?」
「ああ。有名人だからな、君の妹は。アリス=オーウェン……稀代の大賢者と呼ばれる、最高の冒険者の一人だ」
その言葉を聞き、シクロに若干の楽観的な想像が浮かんだ。
もしかすると――アリスの身内だということで、少しでも待遇が良くなるかもしれない。
情けない話ではあるが、それでも今のシクロはそんな可能性にすら縋らずにはいられなかった。
しかし、ギルドマスターはシクロの想像とは真逆の言葉を返す。
「冒険者の間では有名だよ。あの大賢者アリス=オーウェンには――無能で、どうしようもないクズの兄がいる、とね」
「……へ?」
「大賢者自身が、幾度となく口にしているからな。兄のシクロ=オーウェンは彼女の世話になりっぱなしの、ろくに仕事も出来ない無能だと」
シクロは、その言葉が咄嗟に理解できなかった。
なぜ、自分がアリスにそこまで悪く言われているのか。それが分からず、唖然とするしかなかった。
「……覚悟したまえ。君のようなクズ――特に同じ冒険者に迷惑をかけるような輩に我々は厳しい。待遇は最悪なものになると思え」
そうして――ギルドマスターから、さながら死刑宣告のような言葉を聞いてもなお、シクロは自分の置かれた状況が理解できないでいるのであった。
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本日の連続投稿はこの話で終わりです。
明日からも1日7回、9月5日まで連続投稿が続きますので、是非お楽しみください!
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