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05 魔王城




 シクロ達は魔王城に入場した後、バアルの案内により魔王の待つ王座へと案内された。


「――ようこそ、シクロ=オーウェンとその仲間たちよ」


 王座で待ち構えていた魔王が、シクロ達を歓迎する言葉を投げかける。


「まだるっこしいのは無しにしよう、和平の使者殿?」

「ああ、助かるよ魔王様」


 軽口のような言葉を交わし、魔王とシクロは本題に入る。


「ハインブルグ王国との和平に先んじて、シクロ=オーウェン個人と私、魔王の間で友好、同盟関係を結ぶ。そしてシクロ=オーウェンの仲裁によって、ハインブルグ王国との和平を成す」

「ああ。それでノースフォリアも、帝国も立ち回りやすくなる」


 シクロ個人の武威を背景に和平を成す。

 これが本来の、ハインブルグ王国側の『建前』であった。


 だが、建前とはいえ、和平を望んだのはハインブルグ王国側。話が進んでしまえば、無かったことには出来ない。


 そこで、和平の使者とノースフォリアの要人という二つの立場を利用し、シクロ一人で話を一気に進めてしまう。


 こうすることで、ハインブルグ王国がノースフォリアの重要性を意識せざるをえない状況を作った上で、帝国との戦争を終戦、あるいは少なくとも停戦まで持ち込める。


 具体的な、細かな条件は今後王国との協議によって決定されるものの、大枠としてシクロが仲裁する形での和平交渉という形は変わらない。


 これが、シクロと魔王が事前に示し合わせて決めた方策であった。


「ならば、手早く話を纏めよう。まずはシクロ。君との友好、同盟関係について、帝国十二信将から議決を得る」

「帝国って、合議制だったか?」

「いや?」


 シクロの問いに、魔王は悪い笑みを浮かべて答える。


「決定権は私にある。十二信将にあるのは発言権。要するに、提案するぐらいは許されているだけだ」

「ああ、まあ、大事な制度ではあるか」

「この私に忠言可能であるというのは、実権が無くとも、権威にはなるのさ。そして権威欲しさに忠実にもなる」


 つまり、意見を聴いている態度を取ることで手綱を握るのが目的なのだ。


「バアル。十三人円卓会議を開く。十二信将を会議場へと呼べ」

「はっ!」


 魔王の言葉で、シクロ達の後ろに控えていたバアルが王座の間を出てゆく。


「さて、人数が揃うまで、軽く作戦会議といこうか」


 その後、会議場に人が揃ったことをバアルが告げに来るまで、魔王とシクロは話し合いを続けた。




 そうして、時間が過ぎ、いよいよ会議の準備が整った。

 魔王に引き連れられ、シクロ達は十三人円卓会議なるものに出席する。


「よくぞ集まってくれた、皆の者」


 魔王は言いながら、円卓周りの十三ある内で唯一の空席――最も大きく豪華な椅子に腰を掛ける。


「皆様はこちらへ」


 シクロ達にそう声を掛けてきたのは、猫獣人の侍女であった。

 別で席を用意しているらしく、壁際に四つの椅子が並んでいた。

 決して粗末に扱っているわけではないと分かる程度には上等な椅子であった為、特に文句を言うでもなく座るシクロ達。


「――では、十三人円卓会議を始めよう」


 魔王の呼び掛けにより、いよいよ会議が始まる。


「最初の議題だ。私と、そこにいる冒険者シクロ=オーウェンの個人的な友好、同盟関係を結ぶことについての是非を問いたい。意見がある者は?」


 これに反応して、数人が挙手をする。


「では、『金剛』のオーベル」


 魔王に名前を呼ばれた十二信将の一人――赤い皮膚に二本の角を持つ、筋骨隆々の大男、オーベルが発言する。


「魔王様と同盟関係になるのであれば、相応の実力がおありなのでしょう。しかし、我々はシクロなる男については初見でございます!」

「実力が分からなければ、同意出来ないと?」

「いえ! 相応の実力者であると、証明いただきたく!」


 オーベルの疑念は尤もであった。

 だが、これに反論するかのように、バアルが挙手をした。


「ふむ、『光芒』のバアル」

「シクロ=オーウェンの実力については、私が保証しよう」


 バアルが保証する、という思わぬ事態に、十二信将の全員が驚きの声を上げた。


「前線でのトラブル対応に助力を願ったのだが、少なくとも十二信将の誰よりも、圧倒的に強いことだけは間違いない」

「ぬう……バアル殿が言うのであれば、信頼しよう」


 こうしてオーベルの疑念はあっさりと解消された。


 続いて、また複数人が挙手をするのだが――不意に、シクロ達をここまで案内してきた、侍女らしき服装の猫獣人が挙手をした。


「『翻転』のメアリー」


 魔王が猫獣人の侍女――と思われていた、十二信将の名前を呼ぶ。


 まさかこの人物が十二信将だったとは、とシクロ達は驚く。

 そして、だったら席に着いている十二人のうち誰かが偽物なのか? と視線を送る。

 が、見て分かるようなものでも無かった。大人しく話に耳を傾ける一同。


「魔王様は、同盟関係にどのような意義を見出しておられるのでしょうか? この場で改めて、我々にも分かるようご説明頂ければと思います」

「そうか、確かに纏めた方が分かりやすいな」


 言って、魔王は同盟の意義について語り始める。


「まず、私に匹敵する強者と敵対するリスクが下がる。言うまでも無いが、敵が多ければ多いほど私の自由が効かなくなる。守れるものも守れないようでは、魔王の名が聞いて呆れるな」


 当然の利点から導入し、続けて政治面での利益を語る。


「次に、これは一つ目の利点も絡むが、この同盟が王国との戦争を終わらせる鍵にもなる。シクロ=オーウェンを通しての交渉。圧倒的な力の差による諦観。実質、魔王が二人に増えるようなものだ。王国からすれば、動きづらくなるのは間違いない」


 その言葉に、納得したように頷く十二神将が何人か居た。

 続けて、魔王は経済面での利益も語る。


「さらに、シクロ=オーウェンの所属するノースフォリアとの技術交流も将来的には行いたい。交流、とは言っても、実質的には王国の先端技術を我々が学ぶ形になるがね。武力で威圧するだけでなく、経済面で交流に旨味のある相手と認識されれば、無用な争いの抑止にもなる」


 武力無くして経済による抑止は成立しない。

 故に経済のみに注力するわけには行かず、これまで帝国の発展が遅れてきたのだ。

 それがシクロという特異な存在との同盟によって、打破できる。


「――魔王様ッ!!」


 ここまでの魔王の説明に、意気を感じる勢いで挙手をする男がいた。

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