03 盗賊たちとの戦闘
村から一番近い森に到着すると、まずアリスが魔法を発動した。
「生命探知の炎。生物が体内でエネルギーを生むために起こす『燃焼』を感知する、炎属性の探知魔法を発展させたものだよ」
アリスは言うと、シクロに見せびらかすように、手のひらの上に浮かぶ炎を指さした。
「へえ、すごいじゃないか!」
言って、ふとシクロがカリムの方へ視線を向けると。
どうやらカリムも同様の魔法を使おうとしていたらしいが、展開の早さでアリスに劣っていたらしく、つまらなそうに炎を消しているところであった。
「けど、生命探知だけやと野生動物も探知してまうし、方角しか分からん。強い反応と被ったら、その向こう側の弱い反応までは分からんやろ? どうやって区別するつもりや?」
「へっへーん! 大賢者アリス様に不可能は無いわっ!」
言うと、アリスが浮かべている炎の周りに、風の魔法で生み出されたらしい球体が二つ発生。
そして、二つの風の球体は、生命探知の炎の周りをぐるぐると周りだした。
「風を応用した探知魔法を使って、生命反応の距離や方角を正確に割り出す。そして、得られた反応を正確にマッピングすれば――」
次の瞬間。多数の光の点が、生命探知の炎の周辺に浮かび上がる。
「こんな感じで、野生動物にはあり得ないレベルで密集している生命反応が一発で分かるってわけ!」
言ってアリスが指差した場所には、不自然に無数の光点が集合していた。
「……あかん。アリスちゃんに先輩ぶって張り合おうとしたウチがアホやった」
「えへへ♪ まあ、これも全部、DEMのセンサー類に使っている技術の応用でしかないんだけどねー」
自慢げなアリスと、諦めた様子のカリム。
「おしゃべりはこの辺にして、そろそろ盗賊退治といこうか」
シクロの呼び掛けに、一同頷く。
こうして五人は、光点が密集していた方角へと歩き始めるのだった。
盗賊との距離が近づくと、シクロの『時計探知』や、その他の探知魔法によって状況が把握出来るようになってくる。
「堂々と、掘っ立て小屋まで作ってやがるな……」
シクロは言って、舌打ちする。
「見つかっても逃げ切る自信があるのだろう。多少目立とうが構わんということだ」
「村襲って、変に自信付けおったんやな……」
バアル、そしてカリムもまた、悔しそうに言葉を発する。
「油断しきっています。一気に攻め込んで決着をつけましょう」
ミストの提案に、一同頷く。
「そんじゃあ……作戦開始だ!」
一方――ミストの言葉通り、盗賊たちは油断しきっていた。
何しろ彼らの新たな頭目――全身の皮膚が焼け爛れ、顔立ちや体毛の色すら判別ならない男、『腐れ面』。
その剣から発せられる、圧倒的な破壊力を持ったスキルがあれば負けることは無いのだから。
そう確信していた。
だが、油断は油断。
どれだけ威力に優れていた所で、発動出来なければ意味はない。
最強と信じたところで、現実にもそうとは限らない。
「――カヒュッ」
突如、仲間の一人が妙な声を上げる。
その喉笛に風穴を一つ空けて。
ドサッ、と音を立てて倒れてから、ようやく盗賊たちは前を見た。
「だ、誰――」
目に入った人物を威圧しようと――威圧するつもりの、恐怖心を誤魔化すための大声を上げようと口を開いた瞬間。
また盗賊が一人、頭を撃ち抜かれて死んだ。
正面からゆっくり歩きながら、二丁拳銃を構える男を見て。
敵だ。盗賊たちは声を上げようとした。
しかし――直後、四方八方から奇襲を受ける。
剣で斬りつけられる者。
槍に貫かれた者。
様々な属性の魔法に命を絶たれた者。
胸が苦しくなって――心臓を胎児以前の時代にまで回帰、『再生』され、生命活動の維持すら出来なくなって死んだ者。
一瞬にして、盗賊達は壊滅的な被害を受けた。
自分たちには抗う術も無い、と悟った盗賊たちは頭目に、腐れ面に目を向ける。
(――あの顔はッ! 間違いないッ! シクロ=オーウェンッ!?)
怒りと闘志に燃えているらしい頭目の姿を見て、一瞬の安堵を覚える盗賊たち。
「――貴様ぁぁああああッ!!」
腐れ面は吠えた。
憎きシクロ=オーウェンへの復讐に燃えて。
腰に携えた剣に手を掛ける。
だが――遅い。
手を掛けた時には――いや、それよりも先に。
シクロの銃、ミストルテインから放たれた弾丸が、腐れ面の首を吹き飛ばし。
頭と身体は真っ二つに分かれていた。
(シクロ……オーウェン……ッ!!)
恨みを言葉に乗せようと、必死に意気がったところで。
既に声を伝える手段も。その生命も、意味も失われていた。
盗賊の殲滅には、十数秒もあれば十分であった。
一人残らず皆殺し。生き残ったものは無く、大半は討伐の証明に、と首から上を胴体から切り離された状態で死んでいた。
「……コイツが頭目らしいな」
バアルが頭目らしい男、腐れ面の生首を蹴って転がし、顔を確認する。
「貴様の手柄、大将首だ。いるか?」
バアルの、珍しく冗談めかした言葉に、シクロは苦笑いを浮かべる。
「勘弁してくれよ。貰って何になるんだ」
「フッ、だろうな」
言って、バアルは手荷物から布を一枚取り出すと、腐れ面の生首を包む。
「これだけ分かりやすい首一つあれば、村の奴らも討伐は成ったと納得するだろう」
「ああ、行こう。――その前に、ミスト」
「はい、お任せください」
シクロの呼び掛けに応じ、ミストが魔法を発動する。
すると、盗賊たちの死体は、一つ残らず聖なる炎に包まれて――朽ち果て、土に還るようにして消滅する。
「散々悪事を働いたんだろうが……それでも、安らかに眠ってくれ」
シクロが言って、小さく祈りを捧げる。
こうして盗賊退治は終わりを告げるのであった。