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10 決着後のひと悶着




 ――DEMの鎮座する荒野へと、駆けていく一団があった。


 乾いた土と同じ色の服装で全身を包んだ、斥候に似た装備をした一団。


 光となり、消え始めたDEMにも反応を示さず、黙々と荒野を駆ける。


「――何をそんなに急いどるんや?」


 そんな呼び掛けを受けて、一団は即座に立ち止まり、周囲を警戒する。


 彼らを取り囲むように――カリム、アリス、ミストが三方向を抑えていた。


「……」

「だんまりかい。まあ――あんなバケモン用意するだけで終わりじゃあ、何したかったんか分からへんもんな」


 頷きながら――カリムは剣を抜いた。


 それを見て、一団は即座に反転し、後退を試みる。


 が――そこはまた別の人物が抑えていた。


「……ッ! 魔族がッ!!」

「ふん。第一声がそれか」


 そこには、すでに槍を構えているバアルが立っていた。


「シクロ=オーウェンであれば貴様ら程度、今の状態でも制圧可能だろうが……万が一があっても困る」


 バアルが言って、一歩進む。


 一団は、気圧されるように一歩下がる。


「それに、化け物をけしかけてくれた礼がまだだったはずだ。捕虜として魔王軍に招待しよう」


 バアルの言葉を皮切りに、戦いが始まった。




 一方、その頃のシクロ。


 DEMの生成とコントロールに使った魔力は膨大で、かなりの疲労感があった。

 だが倒れるほどでは無く――DEMを魔力に戻し、消した後は、ベヘモスの死体の周辺を歩き回り、危険が残っていないか見回っていた。


「……なんだ、あれは」


 シクロは言って、ちょうどベヘモスの死体の中心。胴体があったはずの場所へと歩いて行く。


 その場所には――ベヘモスの鱗に似た色の岩石で出来た球体が浮いていた。


 いや、正確には球体というよりも、卵に近い楕円形であった。


「微弱な魔力は感じるけど……」


 言いながら、シクロは浮遊する岩石を指で突く。


 すると途端に岩石に罅が入る。


「うわ、やべっ!」


 そして――岩石が真っ二つに割れて、中から何かが飛び出してくる。



「――くおんっ!!」



 鳴き声を上げながら、それはシクロへと突撃してくる。


「うおっ!?」


 両手で受け止めたシクロは、人の頭ほどの大きさのそれを眼の前に掲げる。


 あえて動物に例えるなら、それは羊に似ていた。

 しかしほぼ球体の身体に、やたらふんわりと柔らかく毛量の多い体毛。

 歩くのに適しているとは到底思えない程の短く小さいちょこんとした足。

 くりくりの赤い瞳と、ほぼたんこぶも同然のちっちゃな角がおでこに二本。


 見るからに――最強とは程遠い、愛玩動物とひと目見て分かる生物であった。


「なんだお前……羊? いや、にしては魔力があるし、魔物の一種ではあるんだろうけど……」

「くおんっ!」


 羊もどきの生物が一声鳴くと、途端にシクロは何となく、ぼんやりとそれが伝えたいことが理解出来た。

 どうやら、意思を伝えるような効果のあるスキルを持っているらしい。


 そんな羊もどきによると――なんと、彼はベヘモス本人らしい。


 曰く、ベヘモスは九つの命を持っていた。

 だが、DEMのデッドエンドネイルズで一気に八つ奪われた。

 さすがに焦ったベヘモスは慌てて生存戦略に出た。


 なぜぶち殺されそうになっているのか?

 ぶち殺そうとしたからに決まっている!


 だから誰もぶち殺せないぐらいのクソ雑魚になれば、ぶち殺される理由が無くなるはずだ!


 ――というわけで、ベヘモスは最後の一つの命を切り離し、クソ雑魚愛玩動物に生まれ変わったのだそうな。


「……お前、本気で反省してないだろ?」

「く、くおん!」


 反省はしていないが、殺されたくないので大人しくはする、とのこと。

 神代の怪物、ベヘモスは生き汚かった。


「はぁ……まあ、とりあえず分かった。今のお前はゴブリン以下の魔力しか無いみたいだし、危険度で言えば野良猫よりちょっと弱いぐらいか?」

「くおんっ!」


 さすがに猫には負けない、と言い返す元ベヘモス。

 だが、シクロが察するに間違いなく負けるぐらいには弱い。

 魔力無しなら虫にも勝てないのではないか、という身体を、申し訳程度の魔力で強化してようやく猫といい勝負をして、負ける。


「それに、今回の戦いで死人は出てない。……殺すまでもないといえば、そうなんだけどな」

「くおん!」


 話が分かるじゃないか! と、ちょっと偉そうな元ベヘモス。


「けど、野放しはダメだ」

「くおんっ!?」

「お前がいつまでもこのままクソ雑魚でいる保証は無い。だから、お前はボクが連れて行く」

「く、くおおおんっ!!」


 そんな、話が違う! と焦る元ベヘモス。後で力を取り戻し、暴れるつもりだったのが丸分かりの反応であった。


「……何をしているのだ、シクロ=オーウェン」


 そんなシクロと一匹の背後から、声が掛かる。


 シクロが振り向くと、そこにはバアルが立っていた。

 また、カリム、ミスト、アリスの三人もちょうど歩み寄ってくるところであった。


「わあっ! その子、とっても可愛いですねご主人さま!」


 シクロが手に抱えている元ベヘモスを見て、ミストが駆け寄ってくる。


 そしてごく自然に元ベヘモスを抱えると、そのふわふわの体毛を撫でて楽しむ。


「うわあ、ふわふわです! この子、どうしたんですか?」

「いやあ……ベヘモスの死体の下でちょうど見つけたというか、何と言うか」


 説明に困るシクロ。あの怪物、ベヘモスとは思えない姿と生存戦略を簡潔に伝える自信が無かった。


「なるほど、保護されるんですね?」

「あー、まあ。そうなるかな?」

「では、名前を付けないとダメですね!」

「名前かぁ」


 ミストに言われて、シクロは考える。

 面倒事を抱える事になったのだし、意趣返しとしてとびっきり格好悪い名前を付けてやりたい。


 考え込んで、シクロは決めた。


「よし。そいつの名前はベヘモスにちなんで……『ぺぺもす』だ!」

「くおんっ!?」

「ぺぺもす……じゃあ、ぺぺちゃんって呼びますね!」


 よしよし、ぺぺちゃん、と元ベヘモスこと、ぺぺもすを撫でるミスト。

 名前には納得していない様子のぺぺもすだが、逆らうと殺処分の可能性があるため、何にも言えない。


 こうして元ベヘモスの愛玩動物、ぺぺもすはシクロ達の旅の仲間、兼ペットとなるのであった。

ペット枠兼もふもふ枠の魔物は基本!


テコ入れが遅い? 気にするな!

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