18 辺境送り
処遇の決まったシクロは、一旦牢屋へと戻された。
そして翌日には、もう辺境送りの準備が整っていた。
いくらなんでも早すぎるのだが、それを疑う気力すら、シクロには残っていなかった。
「――さあ、出てこい!」
衛兵が牢屋を開け、シクロを力任せに引っ張り出す。
そのまま犯罪奴隷の証である金属製の首輪を取り付ける。
「……ボクは、どの辺境へ送られるんですか?」
シクロは衛兵に尋ねる。辺境送りといっても、色々あるからだ。
これに、衛兵も最初から通達するつもりだったのだろう。あっさり答えてくれた。
「キサマが送られるのは、北の辺境、ノースフォリアだ。そこで冒険者ギルド預かりとなり、彼の地にある『最悪のダンジョン』を攻略する冒険者達を補助する仕事を与えられる。――端的に言えば、荷物持ちだ」
シクロは言われて、ある意味安堵していた。北の辺境、かつ荷物持ちであれば、過酷な環境ではあるもののすぐ死んでしまうほどの危険は無いと考えられた。
例えばこの国、ハインブルグ王国は、魔王の治める国、ルストガルド帝国と戦争中だ。その国境線に送られた場合は、捨て駒としてあっさり命を使い捨てられる可能性も高い。
そういった環境と比べれば、シクロの境遇はまだマシなものと言えた。
とはいえ――そもそも冤罪で送られるのだ。気分が晴れるようなことは無かった。
――一方、その頃。衛兵の詰め所の、とある一室にて。
ブジン=ボージャックと勇者――レイヴン=クロウハートが密会を行っていた。
「――いやあ、勇者様のお陰で、どうにか誤魔化せましたよ。本当にありがとうございます」
「気にするな。俺にとっても、悪い話じゃなかったからな」
勇者レイヴンは、裁判の時に見せていた正義感溢れる雰囲気などまるで纏っておらず、ブジンと同様の卑しい笑みを浮かべていた。
そう、何を隠そうこのレイヴンは、ブジンと組んでシクロを貶めたのだ。
「しかし、勇者様。いったいどうやって聖女様にあんな証言をさせたんです?」
「ん? ああ。あれか。マリアの証言は単なる事実だ。残念ながら――教会の誰かが横領して、手紙も処分していたことは知らなかったみたいだけどな」
「なるほどぉ」
そう――シクロに冤罪を擦り付けた手口は、至って単純ながら、偶然の産物でもあった。
マリアの証言は事実であり、シクロへの送金も、手紙も送っていた。
だが、その作業を教会の人間に任せていた為、そこで不正が発生した。
聖女様がどこぞの馬の骨を気にかけている、という印象の悪さも相まって、それらがシクロの元に届くことは無かった。
「とにかく、こっちとしても都合が良かったんだよ。お前がこの話――あのシクロとかいうヤツを冤罪で犯罪奴隷に落としたいと言ってきたお陰で、マリアもアイツを見損なう形になった。後は俺が、傷心のマリアを慰めてやれば――」
勇者レイヴンは、その肩書にそぐわない邪悪な笑みを浮かべる。
「へへ、勇者様もお好きですねぇ」
「ふん、それはお互い様だろうが。元々、お前との繋がりも女だったろうが」
「確かに、違い有りませんな。へへへっ!」
こうして――シクロは二人の邪悪で下品な企みにより、犯罪奴隷として辺境送りとなるのであった。
お読みいただきありがとうございます!
この話で第一章は終わりです。
次回から第二章が始まります!
主人公、シクロくんが逆境から覚醒するまでの話になります!
第三章から本格的にざまぁと無双が始まりますので、そこまではどうかぜひお付き合いください!
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