09 最終兵器
DEMのセンサー越しに――シクロはベヘモスを観察し、考える。
(まだ、ブレス攻撃を見ていない。……あの威力だ、やっぱり簡単に撃てる技じゃあ無いのか)
となると――この場面でベヘモスが頼る可能性が高いのも、ブレス攻撃になる。
シクロが警戒していると、ベヘモスは覚悟を決めたように鳴き声を上げる。
『グオオオォォォォオオンッ!!』
するとベヘモスの全身から、赤黒い魔力が溢れ出す。
その勢いは激しく――さながら、命を削ってまで力を振り絞っているかのようであった。
また、溢れた魔力はベヘモスの口腔にも集まっており――どうやら、自爆覚悟でのブレス攻撃を発動する様子。
下手な攻撃を加えると、反撃のブレスが遥か遠方にまで被害を出しかねない。
ブレス攻撃を上空に誘導しつつ、そのエネルギーごと纏めて消滅させる必要がある。
故にシクロは――DEMが持つ最大の攻撃手段を放つことに決める。
『――『Mode:Asterisk』ッ!!』
シクロが言うと、六機のドローンスラスターは背部へと戻る。
本体の魔力縮退炉とも連携し、DEM単独での飛行、浮遊を可能とする形態である。
そのままDEMはスラスターから魔力を噴出させ――運動エネルギーを発生させ、機体をふわり、と浮上させる。
そのまま上空高くへと浮き上がるDEM。
これを、ベヘモスは顔で追っていた。
自爆覚悟のブレスは、間違いなくDEMを仕留める為に放たれるようだ。
『決着だ、ベヘモスッ!! ――『Mode:Deadend』ッ!!』
シクロの掛け声を受けて――DEM背部のドローンスラスターは全て切り離される。
浮力を失ったDEMは自由落下を開始。これを追うようにドローンスラスターが飛翔し――右腕に六機全てが連結される。
片腕に集まったドローンスラスターが全て起動すると、彗星のような巨大な光の尾を引きながら、ベヘモスへと向かって加速しつつ落下するDEM。
マギエンティックネイルズを構え、突撃してくるDEMに――ベヘモスは最大出力のブレスで迎え撃つ。
『ゴォォォォァァァァァァアアアアッ!!』
遂に発射されたブレスに――DEMも最後の一撃を繰り出す。
『――デッドエンドネイルズッ!!』
ドローンスラスター、そしてDEM本体の魔力縮退炉。全てが限界を超えるエネルギーをマギエンティックネイルズに供給。
莫大な魔力を注がれたマギエンティックネイルズが、バチバチと弾ける雷のような魔力を放ちながら光る。
直後――衝突。
ベヘモスのブレスと、DEMのデッドエンドネイルズが衝突。
ブレスを構成する魔力も、エネルギーも、全てがデッドエンドネイルズによって引き裂かれ――極限まで爪に圧縮された魔力が起こす疑似ダンジョン化という空間異常に巻き込まれ消滅。
破壊的な結果を残すことすら出来ずに、DEMの突撃するがままに消し飛ばされるブレス。
それでも――ベヘモスは全ての生命エネルギーを変換してでも、ブレスに魔力を注ぎ込んだ。
ここで突破できねば勝てないと悟っていた。
だが無慈悲にも、デッドエンドネイルズはすでに眼前にまで迫っていた。
今は溢れる魔力の勢いと釣り合っているため、DEMと拮抗しているかのように見える。
だが――ベヘモスの力尽きる瞬間は近い。
『――穿けェェェェェェェエエエエッ!!』
最後にシクロは声を上げ、デッドエンドネイルズをベヘモスへと押し込む。
ついに均衡は破れ――致死の一撃が、ベヘモスの頭部を貫いた。
そして同時に――限界を超えて駆使された魔力縮退炉が自壊を起こす。
複数の疑似ダンジョンが破壊され、神の世界との繋がりを通し、魔力が逆流する。
あらゆる物質、エネルギー、魔力から魂に至るまで、全てが還元されて疑似ダンジョンと共に向こう側へと送られ、消滅する。
ベヘモスの自爆覚悟の魔力だけでなく――DEMの右腕も巻き込み、光の粒子となって弾けて、対消滅を起こす。
弾けた光は――当たり一面に飛び散り、まるで夜空に浮かぶ星々のように宙へ浮かび、輝き、ゆっくりと消滅していく。
その中心に残されたのは……右腕を失ったDEMと、肉体の七割以上が消滅し、ほぼ足しか残っていないベヘモスの死体だけであった。
舞い散る光は、荒野から遥か遠く離れた場所からも確認できた。
ベヘモスの足止めをしていた四人――カリム、ミスト、アリス、そして魔族のバアルも空を見上げる。
「――やったようだな」
言うと、バアルはすぐさまその場を立ち去ろうとする。
「どないしたんや?」
「野暮用だ」
その返答にカリムは眉を顰めた後、ミストをアリスに視線を送ってから口を開く。
「手伝わせてもらうで」
「……そうか」
その言葉を最後に、四人はDEMの――シクロのいる場所へと向かって駆け出した。
また、空に満ちる光を見ていたのは王国軍も同様であった。
「この光は……」
遥か後方。東部境界砦からベヘモスとDEMの戦いを観測していた王国軍の司令部も、空に散った光を見て唖然としていた。
「……星を背負った鋼の巨人が、怪物を仕留めたようだ」
そう呟いたのは、総司令官であった。
「我々は――生き残ったらしい」
やがて戦闘が終わり――ベヘモスの脅威が去ったことが理解できると、王国軍全体を歓声が包み込む。
星を背負うような光を伴い現れたDEMを指して――『流星の巨人』と呼び、感謝する声があちこちから上がっていた。
王国軍と同様、魔王軍も歓声に包まれていた。
ベヘモスという理不尽な死の象徴が倒されたことに。
流星の巨人に救われ、生き残れたことに。
魔王軍の魔族達も、王国軍と変わらぬ喜びに興奮し、歓声を上げ、周囲の仲間と分かち合う。
「――見ろ、巨人が!」
誰かが気づき、声を上げ、指した。
その先には――戦いを終えたDEMが、まるで力を使い果たしたかのように、光に変わって消える姿があった。
それを見た者は誰もが――人も魔族も無く。
国境や、憎しみに分断されていても。
ただ救われたこと。生き延びたことへの感謝を胸に抱くという一点で通じ合ってるのであった。