05 共闘へ
「あの化け物――ベヘモスを倒す秘策はあるッ! 時間は掛かるけど、ボクの仲間が稼いでくれてるッ! 信じてくれ、ここでアレに全軍で突撃したって、犠牲が増えるだけだ!」
シクロは訴えかけるが、バアルは首を横に振る。
「だとしても、だ。我々は戦うべき存在だ。軍とは、戦士とはそういうものだ。貴様を信用する、しないに関わらず、命を賭して敵を討つ。その覚悟が無い者は、この戦場に居ない」
「――だったらッ!!」
バアルの胸ぐらに掴みかかるシクロ。
「そう思うんなら、なんでここに居るんだよッ!! 槍を握る理由はなんだッ!!」
虚を突かれたかのように、バアルは目を見開く。
「死にたいわけじゃないだろ。殺し合いが目的じゃないだろッ!! ここであんな理不尽な化け物に轢き殺されて、それでお前らの槍は誰かを守れるのかよッ!!」
シクロの言葉に――思わず、バアルは手に持った槍に視線を向ける。
「頼むよ……ッ!! ボクが、必ず倒す。必ず守るから……ッ!!」
言いながら、シクロはバアルを開放し、頭を下げる。
それを見たバアルは、言い辛そうにしながらも口を開く。
「……貴様ではなく、貴様を同格と評価した魔王様を信用する」
「っ!!」
「その上で、より合理的に作戦を組み直そう」
言って、バアルは声を張って全軍に通達する。
「――作戦を変更する! 協力者と共に、精鋭のみで怪物を強襲! 残りは隊列を維持したまま距離を取り、最低限怪物の動向を観察可能な位置で第二次防衛作戦の通達まで待機せよッ!!」
バアルの指示により、魔王軍は動き出す。それは――結果的に、魔王軍のほぼ全軍をベヘモスの攻撃範囲から撤退させる命令となった。
「――さて。行くぞ、シクロ」
バアルは言って、装備の確認をしながらシクロに語りかける。
「我が手伝う。貴様は一刻も早く、秘策とやらを準備しろ」
言われたシクロは、自身に満ちた笑みを浮かべて頷く。
「任せてくれ」
その後二人は、魔王軍から離れてゆく。
バアルはベヘモスの足止めに向かい、シクロはベヘモスから離れた、開けた場所を探して駆け出した。
その頃、いよいよベヘモスが行動を開始しようとしていた。
その巨体は割れた空間から完全に脱出するには時間が掛かった様子で、今、足の最後の一本が抜け出そうとしているところであった。
「出てきたと同時に――いっちゃん強烈なやつをお見舞いするで、ミストちゃん」
「はいっ! ――『ホーリーブレス』」
ベヘモスの様子を観察しつつ、カリムが言って、ミストはそれに応え、味方にバフを付与する神聖魔法を発動した。
そうして――ついに、ベヘモスが行動を開始する。
『グモオオオォォォォオオッ!!』
割れた空間から脱出した喜びか、ベヘモスは鳴き声を上げる。今回は攻撃を含まない、音だけの鳴き声であった。
直後、カリムがベヘモスの左前足に向かって駆け出す。
「行くでェッ!! ――『紅焔剣舞』、六連やッ!!」
カリムがスキルを発動すると――魔力の炎が大量にカリムの周囲に溢れ、やがて五本の剣を形作る。
それでも余った炎が、カリムの持つ剣へと集まり、炎で強化する。
そのままカリムは突撃する勢いを乗せ、ベヘモスの足へと斬りつける。
「どりゃァァアアッ!!」
カリムの手に持つ剣の一撃、そして続く炎の剣の五連撃。
鋭い剣閃がベヘモスの頑強な鱗と分厚い皮膚を切断し――しかし、まだ筋肉までには到達していない。
「まだまだやァッ!!」
続けてカリムはベヘモスの足へと、舞うような連続攻撃を繰り出す。
初撃で与えた傷を中心に、炎の六連撃を幾度と無く積み重ねる。
やがて皮膚は裂け、筋肉まで傷は到達し、ベヘモスへとダメージを与える。
これを嫌がったベヘモスは、足を後退させる。
だが、当然カリムは追撃。
「これで――しまいやッ!」
カリムが言うと――五本の炎の剣がカリムの手にする剣に集まり、炎が肥大化。身長を超える、三メートル弱はありそうな巨大な剣を象る。
それをカリムはごうっ、と振り抜き、逃げるベヘモスの足に斬りつける。
斬撃はベヘモスの足を深く切り裂き、そして傷口を焼いてダメージを与える。
『グモォオオッ!!』
このダメージに怒りを感じたのか、ベヘモスがカリムへと顔を向け、ギョロリと巨大な眼球で睨みつける。
――それと同時に、不意打つような攻撃が飛来する。
「――オォォォオオオオッ!!」
雄叫びを上げながら、突撃し、飛び上がったのは――魔王軍から駆けつけたバアル=ゼフォン。
手にする槍にスキルを発動し、輝く魔力を纏わせてベヘモスの顔面へと襲いかかる。
そのままズドンッ!! と砲弾のような音を立て、槍を突き立てるバアル。
『ガァァアアアッ!!』
眉間に突き刺さった槍の痛みに、嫌がるように首を振るベヘモス。
バアルは即座に槍を抜き、離脱する。
そしてベヘモスから距離を取り、ミストと合流していたカリムの前へと飛び降りる。
「足止めをするのだろう? シクロの秘策が成るまで、助太刀する」
その言葉に、カリムとミストは頷く。
「助かるわ、頼りにしとるで!」
「よろしくお願いします!」
二人の言葉に頷き、バアルはベヘモスへと向き直る。
恐るべきことに――バアルの付けた傷は既に治癒をしつつあり、傷は半分ほどの大きさに変わっている。
カリムの燃やした傷口でさえ、もう再生が始まっている。恐るべき回復力を持っているのは明らかであった。
「――魔王軍、十三信将『光芒』のバアル=ゼフォン、推して参るッ!!」
合流したバアルと、カリムにミスト。魔族と人間が力を合わせ、ベヘモスに立ち向かう。