01 車中泊
東の辺境へと、ファーヴニールに搭乗して向かうシクロ達。
日が沈むまでで、行程の三分の二程度まで進み、翌日には到着するだろうという見込み。
無理して夜間に進む必要も無いため、この日はこの地点で車中泊となる。
夕食も済ませ、これから寝ようという段階になって、アリスが口を開く。
「――お兄ちゃん、お願いがあります!」
「ん? どうした?」
突然、手を上げてお願いをしてくるアリス。
何事か、とミスト、カリムもアリスの方を向く。
「お兄ちゃんに、添い寝してもらいたい!!」
力強く宣言するアリス。
「はぁ?」
呆れた様子で声を上げるシクロ。
「ボクは助手席で待機するって決まっただろ?」
「でもでも、最近お兄ちゃんにあんまり甘えてない気がするんだもん……」
ワガママを言うアリス。
そんなアリスに便乗するように、ミストが会話に割り込んでくる。
「ご主人さま! 添い寝するなら私もしてもらいたいですっ!」
「いや、ミスト、あのな?」
「じゃあもう、いっそみんな一緒に添い寝してもらおっか! カリム姉も、ほら!」
「えっ、ウチも!?」
アリスに腕を引かれ、照れながらも拒否はせず、シクロの方へと寄ってくるカリム。
「いや……お前らなぁ。四人一緒はさすがに無理があるだろ」
シクロは全員が一箇所にぎゅうぎゅうに詰まって眠る様子を想像し、首を横に振る。
「そもそも、ボクは寝ないのに添い寝って成立するのか?」
「じゃあ、私たちが寝るまで一緒に居てくれるだけでいいから! ね?」
引く様子の無いアリス。
少々強引な言動に、シクロはふと思うことがあり、気を取り直してアリスと向き直る。
「アリス。少し真面目な話をするからよく聞いてくれ」
「えっ、うん……」
シクロの真剣な様子に押され、勢いを失い口を噤むアリス。
「添い寝が嫌なわけじゃないんだ。ボクは、三人ともそれぞれかけがえのない存在だと思ってるし、大切にしたい。だから、無茶なお願いじゃなければ叶えてあげたいとも思う」
シクロは宥めるような口調で語る。
「けど、アリスは今、純粋に添い寝したくてお願いしてるわけじゃないよな?」
「えっと、それは……」
「焦ってる。このまま――兄と妹って関係のまま変わらずにいるのが、嫌だったんだよな?」
「……うん」
シクロに問われて、アリスは頷く。
「だって、お兄ちゃんは、ミストちゃんのことが好きなんでしょ? だったら、ただの妹なんて相手にされないかもって……」
「……そうか。ごめんな、アリス」
言って、シクロはアリスの頭を撫でる。
「ボクはミストのことが好きだ。けど――アリスのことも、カリムのことも好きだよ」
「はぁっ!? ちょ、シクロはん!? ウチも!?」
急に顔を真赤にして照れるカリムに、シクロは苦笑を浮かべる。
「当たり前だろ? 思いは量で測れるものじゃない。ミストも、アリスも、カリムも。それぞれ違う形で好きなんだ。だからアリス。焦らなくていいんだよ」
「……ほんと?」
「ああ。上手く出来るかは分からないけど、ちゃんとアリスが望むような関係に近づけるよう、ボクも頑張るから。焦って、無理する必要は無いよ」
シクロの言葉に、アリスは安心した様子で身体の力を抜き、息を吐いた。
「そっか。ゆっくりだけど、変わらないわけじゃないんだね」
噛みしめるように、アリスは言った。
すると、そこへ横槍が入る。
「でも、添い寝はしたいですよね?」
「あ、うん! それはもちろん!」
ミストがアリスに問いかけた言葉により、発端となった話題が掘り返される。
「あー……まあ、四人一緒とかそういう無茶な話はダメだからな?」
「では――アリスさん。三人で順番に添い寝、というのはどうでしょうか?」
「賛成っ! でも言い出しっぺは私だから、一番は貰うからね?」
「むう……仕方ないですね。では二番は私が貰います。カリムさんは三番目でいいですか?」
急にミストから話を向けられ、カリムは驚く。
「ひゃあっ!? ウチか!? い、いや、ウチは別に……」
「……ご主人さまのこと、お嫌いなんですか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「どうなんですか?」
「くっ……あーもうっ! ウチかてシクロはんのこと好きや! 何やねん、小っ恥ずかしいこと言わせよってからに!!」
「では、添い寝の順番は三番目でオッケーですね?」
「ま、まかせとき!」
こうして、添い寝の順番は決まった。
が――次の車中泊がいつになるのか未定となったため、結局は四人で車内に雑魚寝し、ぎゅうぎゅう詰めで添い寝する羽目になる。
「家族がいっぱい出来たみたいで、楽しいですねご主人さま!」
そう言って喜ぶミストに絆され、結局シクロは四人一緒の暑苦しい添い寝をする羽目になるのであった。