17 裏切り
「なんとこの最低の男シクロですが、実はかつて聖女様と親しい間柄にあったのです! そして、我々は聖女様から重要な証言を手に入れました! ――では、聖女様お願いいたします!」
ブジンが盛り上げるように語ると、マリアは頷いて証言台で喋り始める。
「……シクロくんとは、元婚約者の関係でした。それで、シクロくんが不遇なスキルを手に入れてしまったことも知っていました。だから生活費を稼ぐのも大変だろうと思って――聖女としてのお仕事をして貰ったお金から、幾らか差し引いて仕送りのようなことをしていました」
「ま、マリア? えっ? どういうこと?」
シクロは驚きのあまり、状況が理解できていなかった。
けれど構わず、マリアの証言は続く。
「それに、お金だけじゃなくて、手紙もずっと送ってたんです。一度も返事が来たことは無かったけど、読んでくれてるってずっと信じてました。なのに……こんな、最低なことをしてたなんて!」
マリアはシクロの方を睨みつけ、言い放つ。
「――最低です、シクロくん。見損ないました」
言われた途端、シクロは頭の中が真っ白になる。そして、目の前が真っ暗になる。
目眩のような感覚を覚え、足元がふらつく。それぐらい、シクロにとってはショックな言葉だった。
「そんな――マリア、違うんだ。信じてくれ! ボクはお金も、手紙も一度も受け取ったことは無いんだ!」
「嘘を吐くのは良くないな、被告人! 聖女様が送金していたことも、手紙を送っていたことも、どちらも教会の記録に残っているのだぞ!!」
ブジンに言われて、シクロは怒りに任せて言い返す。
「だったら教会側も嘘を吐いてる! そんなもの、ボクは絶対に貰ってない!」
「……私のことまで、嘘つき呼ばわりするんですね」
マリアが、幻滅したような声でシクロの言葉に言い返す。
「違うよ、マリア! そういう意味じゃないんだ!!」
シクロは弁明をしようと、興奮のあまり被告席から離れ、マリアの方へと近づこうとする。
しかし――それを阻止する者が居た。
「それ以上動くな!」
それは、ブジン達衛兵と一緒に席に付いていた男の一人だった。
素早く、鞘に入ったままの剣を構え、シクロの動きを制限するようにあいだへと入り込む。
「これ以上は聞くに堪えない。マリアの善意を踏みにじった君を、俺は許せない!」
「勇者様っ!」
男を、マリアは勇者と呼んだ。それでシクロは理解する。この男こそが、聖女と共に現在この国で活動している特別な職業スキル『勇者』持ちの男なのだと。
新聞や噂話で、勇者と聖女は非常に親しい仲にある、とシクロも聞いたことがあった。
そして――目の前の光景から、どうやら噂以上に二人の関係が進んでいるんだろう、とシクロは悟ってしまう。
味方など、一人もいないのだ。
そう分かった瞬間――シクロから、全ての気力が抜け落ちていく。
そのまま反論する気も失せ、その場にへたり込む。
「――判決を言い渡す!」
裁判長が判決を出そうとしても、シクロは全く逆らおうともしなかった。
「被告人が連続強姦事件の犯人であることは明白! よって犯罪奴隷として辺境送りの刑に処す! そして存分に罪を償ってくるがよい!」
犯罪奴隷として辺境送り。これは死刑を除けば、最も過酷で重い刑罰だ。
けれどシクロは、それでも逆らう気が起こらないぐらい、すっかり打ちのめされているのであった。