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23 オリヴィアの願い




「……ボクに、ギルドマスターを、ですか?」


 シクロは思わず聞き返す。

 すると、オリヴィアは頷いて答える。


「ええ。貴方のように、仕事に対して情熱を持って接することの出来る人材が、今は何よりも必要だと思うの」

「それは……」


 オリヴィアの発言の根拠が分からず、言葉に詰まるシクロ。

 そんなシクロに、オリヴィアはさらに言葉を続ける。


「――この国は今、停滞しているわ。誰もが使えるようになったスキルのお陰で発展してきた。けれど、それは自ら求めて手に入れた成長ではないの。誰もがスキルに従い、スキルの示すままに力を振るい、流されるままに成長をしてきた」


 オリヴィアの語る言葉を、シクロも理解は出来た。確かに職人ギルドにも、技術はあるもののやる気の無い職人というのが一定数以上は居た。


「けれど、そのままでは駄目。孫の代まで同じ鋤で、同じ畑を、同じように耕していた頃と本質的には変わっていない。だからこの国は、これ以上の成長が望めずに停滞してしまっているの」


 恐らくは――王妃という立場にあったオリヴィアだからこそ、知りうるもの、見えるものがあるのだろう、とシクロは思った。

 そして、だから最初の要求に繋がるのか、とも。


「だからこそ、私は貴方に任せたいの。人が真に成長する為には、意志が必要なのだと理解出来ている貴方に。あらゆる職人たちを、今よりも更に先へと導いて欲しいの。スキルをただ使うだけでなく、生み出される結果に情熱と興味を持つことの大切さを伝えて欲しいの」


 オリヴィアの要求の意味も、ようやく理解できたシクロ。

 そして確かに――国の発展をスキルに、つまりスキル選定教に頼ってきたハインブルグ王国には、必要な処置でもあると思えた。


 しかし――シクロは頷くわけにはいかなかった。


「すみません、オリヴィア様。その願いには、お応えすることは出来ません」


 ハッキリと断るシクロ。


「ボクには、やりたいことがあります。王都で職人ギルドのマスターとして働くことでは、出来ないことがあるんです」


 シクロは首を横に振る。


「それに――決して誰しもがスキルに頼り切っているわけじゃないですよ。多分、今はその成果を表に出すには、すこし息苦しいだけなんだと思います」


 言いながら、シクロは思う。

 少なくとも――シクロの知る職人の大半は、自分の仕事に対する誇りや、向上心といったものがあった。


 それが成果として表に出ないのは、単に仕事がスキルによって細分化――つまり職業スキル持ちをトップに据えた結果、業界が細分化されすぎてしまうことによるものだとシクロは考えていた。


 例えばシクロは時計職人であったが為に、それ以外の仕事を見て学ぶ機会が少なかった。

 時計職人として成長する上で、そういった機会の損失は大きかったと痛感している。


 逆に、シクロ自身が新たなアイディアを持っていても、それが他の職人に共有されることは無かった。

 一つ一つを見れば些細なことではあったものの、積み重なることで職人同士の断絶が起こっていたのだと、オリヴィアの話を聞いた今であれば理解できた。


「ですが……オリヴィア様の願いと、ボクの願いはそう遠いところにあるものでは無さそうです。なので場合によりますが、手伝える範囲であれば協力することを厭いません」


 シクロの願い。スキルによって、人の生き方が理不尽に歪められる世の中を変えてゆきたいという思い。

 それはオリヴィアの危惧する――スキル持ちが国の定めた法律により、成長を阻害されているという問題にも部分的に重なる。


 故にシクロとしては、状況次第ではオリヴィアと協力する可能性があると伝えたのであった。


 そして、協力の可能性を示してくれることが、誠意の証であると理解出来たオリヴィアは。


「……なるほど。それがシクロさんの、今の考えなのね」

「はい」

「――分かったわ。ありがとう、シクロさん。協力して貰える可能性があるだけでも、十分だわ」


 そう言って――要求が断られたにも関わらず、優しげに微笑むのであった。

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