16 王国の歴史
「ちゅーわけで、アリスちゃんの為のナゼナニ王国歴史クイズ~~!」
面談を終え、宿に戻ってきた後。しばらくアリス以外の三人が相談した後、夜になってカリムがそんなことを言い出した。
「……えっと、カリム姉?」
「つまりやな、これからの叙爵式でアリスちゃんが暴走せえへんように、王国の歴史とそこから来るシクロはんの立ち回りを予習しとこうっちゅうわけや!」
「なるほど! 頑張るっ!」
「まあ、こんなふざけた形式にしようって言い出したのはカリムだけなんだけどな」
シクロはカリムに文句を言いながら……『きぞく』と書かれた紙を頭に貼っている。
そしてカリムは『しょみん』、ミストは『きょーかい』と書かれた紙。
どこか間抜けな格好の三人であった。
「んじゃあ、始めるで!」
カリムの掛け声で――急ごしらえの寸劇が始まる。
「……かつて、このあたりには都市国家が無数にあった。どの国も、貴族と庶民の関係は次のような感じやった」
「貴族です。本とか読めるし武器もいっぱい持ってるぞ」
カリムのナレーションに合わせて、シクロが貴族役としてアピールする。
「一方、庶民のウチは土とかいじっとった」
そしてカリムが庶民役としてのアピールをする。
「当然、こんな状況やから王侯貴族の力はめっちゃ強かった。そんな中、スキル選定教が発足したんや。当時の貴族は――」
「庶民に力なんか渡すわけ無いだろ! いい加減にしろ!」
「って感じやった」
「ふむふむ……」
シクロとカリムの演技を見て、話を頭に入れていくアリス。
「で、教会は次のようなことを考えたんや」
「黙ってこっそり広めましょう」
「ウチら庶民は、なんかしらんけどお得らしいからこっそり入信していったんや。そんなわけで、最初は庶民に少しずつ広まる邪教って感じの扱いやった」
続いてカリムとアリスがスキル選定教の境遇を演技する。
「そんなある日、とある貴族が気づいてしまったんや」
「もしかして、この宗教で庶民を強くして戦争すれば勝てるんじゃないか?」
「ちゅーわけで、スキル選定教を国教にして、強うなって戦争しまくったんが、ハインブルグ王国や」
「へぇ、知らなかった!」
「いや、それは流石に問題あるぞアリス……知識が偏りすぎだろ」
錬金術と魔法の知識ならあるのに、一般常識レベルの歴史の知識が無いアリスに呆れるシクロ。
一方で、お構いなしでカリムが話を続ける。
「せやけど、途中で貴族は気づいてしもたんや」
「……この国、俺たちの国じゃなくて教会の国になってないか?」
「ちゅーわけで、戦争してる場合やのうなった。貴族と教会で内ゲバが始まったっちゅうわけや」
「これが今の貴族の改革派と保守派の源流だな」
「あ、シクロはん! そこクイズにするつもりやったのに!」
「……いるか? クイズ」
カリムから抗議を受けてしまうシクロ。
「えー、気を取り直して。内ゲバが始まった一方で、庶民は土いじってる場合やのうなりました。それはなんででしょーか!」
「はい! 貴族と教会の争いに巻き込まれた!」
「ぶっぶー、不正解!」
しっかり挟まれたクイズに不正解していくアリス。が、ここは間違っても仕方ないと思っている為、シクロ達は誰もツッコまない。
「実は庶民が戦争で豊かになった結果、余裕が生まれ始めたんや。そうなると、新しいことを始めたり、今までにない技術を作ろうとしたり、とにかく色んなことをやり始める。結果、経済的、技術的な部分が急速に発展していったんや」
「教会と睨み合いしていることと、庶民が強くなると国が強くなるって経験を経ていること。他にも色々理由があって、貴族が庶民の活動を許したってのも大きいって言われてるな」
「へぇ~」
カリムとシクロの説明に感心するアリス。
「さあ、ここで問題! そういう訳でハインブルグ王国は政治体制と支配階級の構造が古いまま、経済と技術だけ発展したチグハグな状態なんやけど、そんな中でスキル選定教と明確に敵対したら、世間様からはどう見られると思う?」
「えー、あいつらなんか鬱陶しいことばっかするし……追い出してくれるなら別にいいんじゃないの?」
「ぶっぶー! 不正解!!」
案の定、といった様子でアリスが間違うのを三人とも見守る。
そして、アリスの代わりにミストが答える。
「当然、恨まれますよね。今、この国は誰もがスキルを使えるという強みに頼って発展しています。追い出したりしたら、みんな貧しくなるのって分かっていますから」
「正解や、ミストちゃん! えらいなぁ!」
「えへへ……ご主人さまが本を読んで勉強している時に、ご一緒させて貰ったりしたので」
シクロは叙爵するに当たり必要な知識を得るため、ノースフォリアのデイモスの屋敷で本を読み、勉強をしていた。
それに付き従っていたミストも、ある程度の教養が得られたという訳である。
「ぐぬぬ……ミストちゃんに負けるとは……っ!」
「安心しろ、アリス。残当な結果だから」
「うっ」
悔しがるアリスを、フォローするように見せかけてさらに追い込むシクロ。
「ちゅーわけでアリスちゃん。ウチらはスキル選定教とは相容れへん状況にある。せやけど、正面から『お前ら出てけぇっ!!』って言うたらあかんのや」
「叙爵式と、その後のパーティでも。ご主人さまの為だと思っても、絶対に教会と敵対するような姿勢を見せちゃ駄目なんです。分かっていただけましたか?」
「……わかりました、大人しくしまぁす……」
カリムとミストに詰められ、アリスは気落ちしたように言って要求を受け入れた。
こうして無事、最大の不安要素であるアリスの暴走を一応は抑えることに成功する。
が、やはり寸劇方式で教える必要があったのか疑問が残るシクロであった。