16 裁判
シクロが目を覚ました頃には、既に牢屋に入れられた後だった。
看守から状況を訊くと、どうやら裁判にかけられるらしく、シクロはまだ希望を捨てずに居た。
(……ボクが犯人だなんて、証明する証拠は無いはず。ちゃんと弁明すれば、無罪になるはずだ)
そう考えて数日の間、牢屋の中で裁判の日を待った。
そして――三日後。裁判の為に、シクロは手錠を付けられたまま、牢屋から出されることとなった。
今回の裁判は簡易的なもので、立派な法廷ではなく衛兵の詰め所と併設されている簡易裁判所で行われる。
結果が不服であれば、上告して王国の騎士団が管理している大きな裁判所でもう一度裁判を行う。
だから証人はもちろん、傍聴人もそう多くはないとシクロは思っていた。
しかし――実際には、かなりの人数の傍聴人があつまっていた。
「……どうして、こんなに人が?」
「無駄口を叩くな!」
シクロが素朴な疑問を呟くと、その背中を衛兵が小突く。
足を止めていたわけでもないのに、ここまでしなくても、とシクロは思ったが、文句を言えるような状況でもないので、仕方なく黙って歩く。
そうしてシクロが席に着くと、連続強姦事件容疑の裁判が始まる。
「では、これより裁判を始める。まずは容疑について纏めたものを、衛兵長ブジン=ボージャックから報告してもらう」
裁判長らしき男性の言葉で、衛兵達の中から一人――なんと、シクロに強姦の犯人容疑をなすりつけた張本人が立ち上がり、証言台に立つ。
「えー、今回の事件ですが。実は以前から調べておりまして。なんと、このシクロという男は以前から街のゴロツキ共に金を渡し、人払いをさせてから強姦に及んでいたことが分かっています! なんという卑劣漢でしょう!!」
熱く語る真犯人、ブジン。もちろん、そんな言い分にシクロが納得するはずもなく。
「それは違う! そんなことはしてない! それに、お金だってそんなに渡せるほど持ってない!!」
と、反論を証言した。
しかし、待っていましたとばかりにブジンはニヤリと笑う。
「それはどうかな? では、証言者に来てもらおう!」
ブジンが言うと、一人の男が裁判所に入ってくる。
そしてブジンと入れ替わるように、証言台に立った。
その男は、見るからに人相の悪いゴロツキで――シクロにも見覚えがある、ブジンから金を受け取っていた男たちの一人であった。
「へへへ。実はアニキから、ちゃっかり金は貰っていましてね。人払いを頼まれてたのは本当ですぜ。それで何をするつもりかまでは知りやせんでしたがねぇ」
男の証言に、傍聴人達がざわつく。ゴロツキの証言が、すっかり真実であるかのように信じられていた。
だが、シクロはそんな嘘の証言を認めるわけにはいかなかった。
「そんなこと、やったことも無い! それに、お金をそんなに誰彼構わず払えるほどボクは裕福じゃない! 自分の生活で手一杯だったぐらいだ!」
「嘘はよくありませんなぁ、被告人!」
ブジンはシクロの反論にも動じず、ニヤニヤと笑う。
「では、その嘘を暴く為の新たな証人に登場してもらいましょう!」
ブジンが言うと――また一人、新たな証人が裁判所へと入ってくる。
その人物があまりにも意外だった為、傍聴人は驚きの声をちらほら上げた。
シクロもまた、目の前の光景が信じられなかった。
「そんな――マリアが、どうしてそっち側に……?」
そう。ゴロツキと入れ替わるように証言台へと立ったのは、かつてのシクロの婚約者にて現在は聖女として有名な人物。
マリア=フローレンス、その張本人が立っているのであった。