10 ようやくの発見
ゴロツキ達が動き出すと同時に、シクロは『時計生成』を発動する。
「ミストルテインッ!!」
瞬時にミストルテインを両手に生成し、構える。
直後――ダダダンッ! と幾重にも重なる銃声と共に、魔力の弾丸がゴロツキの膝に強い衝撃を与える。
「ぐあぁっ!!」
膝を撃ち抜かれたゴロツキ達は、途端に体勢を崩してその場に倒れ込む。
威力が控えめであったために貫通こそしなかったものの、関節が不自然な方向に曲がる者も居る程度のダメージは与えた。
これで、ゴロツキ達は即座に立ち上がることは不可能となる。
「――な、何なんだそれはッ!!」
「見ての通りだ」
シクロは最後に、狼狽するコウと、その後ろでその場から逃げ出そうとしていたロウの足を狙って撃つ。
「ぎゃぁあっ!!」
「足がァっ!!」
ゴロツキと同様、膝関節に重大なダメージを受けた二人はその場に倒れる。
制圧を終えたシクロは息を吐きながら、時計生成を解除してミストルテインを消す。
「――おい、野次馬共!」
そしてシクロは、離れた場所から騒動を観察していた貧民街の住人――野次馬達に呼びかける。
「誰か一人でいい。銀貨をやるから、表から警吏を呼んで来てくれ!」
そう言うと、野次馬の中から一人、シクロより幼いぐらいの少年がおずおずと近寄ってくる。
「ほ、本当に銀貨をくれるんですか……?」
「ああ。何なら先にくれてやる。高ランクの冒険者が貧民街で違法奴隷商を捕まえた、とでも言って呼んできてくれ」
「は、はいっ!!」
シクロは少年に銀貨を渡す。すると少年は、すぐさまその場を離れる。
「……クソ、クソッ! クソォォオオッ!! 何故だ、何故私ばかりがッ!!」
その場に蹲りながらも、ロウは恨み節の乗った言葉を吐き出し続ける。
「他人に悪意をぶつけて来たんだ。返ってくるのは当然の道理だろ」
「馬鹿を言うなッ! 私は正義を成したッ!!」
「飾るなよ。正義感だって他人への悪意だ。相手が居るんだから、それが悪人であっても悪意は返される。だからアンタは失敗した」
「だったら――貴様も死ねッ!! シクロ=オーウェン!!」
ロウは言いながら懐に右手を入れて――隠し持っていた魔導具を取り出す。
性能までは判断出来ないが、明らかに攻撃目的の魔導具であるとはシクロにも判断出来た。
――ダァンッ! と銃声が響く。
瞬時に生成したミストルテインを右手に持ち、シクロは手加減無しの魔力弾でロウの手首を撃ち抜いた。
一般人であるロウがこの威力に耐えられるはずもなく……手首から先は千切れて吹き飛ぶ。
結果、魔導具を起動する間も無く制圧される。
「ッギャァァアアアァァアッッ!!!」
「――悪いな。ボクはアンタとは違う」
言うと、シクロは再びミストルテインを消失させ、吹き飛ばした魔導具の方へと歩み寄る。
拾って確認すると、それは爆破効果のある魔導具。冒険者が魔物との戦いで非常時に使うようなものであり、周辺に多大な被害が出ることが予想される代物であった。
「ボクならこんなものは使わない。こんなものに……奪われはしない」
言いながらシクロは――『時計操作』のスキルで内部の構造をいじり、瞬時に魔導具を分解するのであった。
その後、銀貨を渡した少年が警吏を連れて戻ってくる。
警吏は半信半疑といった様子だったが、シクロが冒険者ギルドのカードを見せることで納得する。
その後は膝を砕かれたゴロツキ達とコウ、そして手首より上を吹き飛ばされたロウを捕縛し、連行していく。
「――ちゃんと呼んできてくれてありがとな。これは追加の報酬だ」
シクロは警吏を連れてきた少年に感謝を告げつつ、もう一枚の銀貨を渡す。
「ありがとう、ございます」
感謝を告げながらも、少年は周囲に視線を送り、怯えているような様子を見せた。
これを見て、シクロも状況を理解する。
「……なるほど。お前、どこに住んでるんだ?」
「え?」
「送ってってやるよ」
「……貧民街の、教会跡です」
「そうか。んじゃあ、そこまで案内してくれ」
こうしてシクロは、少年を教会跡まで送ることとなる。
そして道中、雑談とばかりにシクロは教会跡の状況について訊ねる。
「教会跡ってことは、元々はスキル選定教の教会があったんだよな?」
「うん。俺たち孤児を助けてくれる教会だったんだけど、お金が無いからって潰れちゃって」
「で、行く宛が無いからそのまま住んでるってことか」
「でも、シスターが一人残ってくれて、俺たちの為に頑張ってくれてるんだ。最近は大人の女の人が増えたから、少し楽になったみたいなんだけど、それでもシスターを助けたくて」
「なるほどな。だから警吏を呼びに行ってくれたってわけか」
少年の境遇に、わずかばかり同情するシクロ。
だが、シクロがこの場で彼や、教会跡に居る人々を救う術は無い。
下手な正義感に流されないよう自身を諌めながら、教会跡へと向かう。
「――ここだよ、兄ちゃん!」
そうして無事、少年の手に入れた二枚の銀貨を狙うような輩と出会うこともなく、教会跡へと到着する。
「貧民街にしては立派な建物だな」
教会跡と言う割に、少し古びた教会といった様子で、周囲の建物と比べても小綺麗であった。
そして、教会の中庭に当たる場所では小さな畑が作られており――大人の女性が一人、作業をしている様子が見られた。
「――ただいま! 『サリナ』さん!」
「……えっ?」
少年が畑仕事をする女性の名前を読んだ瞬間。シクロは驚き、反応する。
そして、こちらに背を向け畑仕事に勤しむ女性へと視線を向けた。
「あら。どこへ行ってたの――」
女性は立ち上がりつつ振り向き――そして、シクロの姿を見た途端、固まる。
「……シクロ、ちゃん?」
その姿は紛れもなく――シクロの母親。サリナ=オーウェンであった。