15 警吏襲撃
その日の夜。シクロは家を抜け出し、ミランダの店の近く、家の陰に身を隠す。
(……絶対に、ボクが止めないとっ!)
決心したシクロは、静かに襲撃者たちが来るのを待った。
やがて――深夜、誰もが寝静まった頃になって、人影が現れる。
シクロが顔を出して確認すると、それは警吏の姿をしていた。
(あの顔は……路地裏に居たヤツだ。間違いないっ!)
だが、まだ油断は出来ない。
男の他に誰かいないか、シクロは周囲を確認する。
ゴロツキたちは別の場所で人払いをしているのか、近くには見当たらない。
やがて警吏の男は周囲を警戒しながら、ミランダの店へと近づく。
そして――ドアノブに手をかけた時。
「――うわあああああっ!!」
シクロは大声を出しながら、警吏の男に向かって飛び出した。
「な、なんだキサマっ!?」
「誰か! 誰か助けて下さいっ!!」
そう言って、大声を上げて人を集めようとするシクロ。
騒動に気付いたのか、近所の家の明かりが点きはじめる。
「くそっ、テメエ邪魔しやがってッ!!」
「うぐっ!」
警吏の男はシクロの顔面を殴り飛ばす。
そのまま逃走を図ろうとするが――既に、近所の人たちが家から出てきていた。
このまま逃げても、男の姿は多くの人が目にするに違いなかった。
シクロは、これでどうにか襲撃を防げた、と半ば安心しはじめていた。
しかし――警吏の男は、ここで機転を聞かせ、ニヤリと笑う。
「キサマッ! おとなしくしろッ!!」
男は言うと、倒れるシクロにさらに蹴りを入れて、さらに上からのしかかるようにして押さえつける。
「うぐっ!?」
「この犯罪者がっ!! 逃げられると思うなよッ!!」
男の言葉が、シクロには理解できなかった。犯罪者はお前だろ、とシクロは思った。
だが――近くによってきた近所の住人と、警吏の男が会話することで、その意味がようやく理解できる。
「どうされたんですか!?」
「近所の方ですね? 他の警吏を呼んで下さいッ! 強姦未遂の容疑者ですッ!!」
「えっ!? そうなんですか!?」
「早くッ! 逃げられないうちにッ!!」
「は、はいっ!」
その言葉を聞いて、シクロは顔が青ざめる。
(まさか――こいつっ! ボクに罪をなすりつけるつもりかっ!?)
慌てて声をあげようとするシクロ。
だが、警吏の男が上から強く抑えているせいで、うまく声が出せない。
「うぐ……ぼ、くは……」
「黙れ犯罪者めッ! どうせ、キサマが昨今の連続強姦事件の犯人なんだろうッ!? 今日という今日はもう逃さんからなッ!!」
どこか不自然な、警吏の説明っぽい口調。
けれどそれはシクロが真実を知っているからこそ分かるもので、そうでない人々にとっては警吏の言葉こそが真実。
そして――シクロが最後に目にしたのは。
「……そんな。シクロくんが……?」
と声を漏らす――自宅前の騒ぎに気づき、様子を見に来たミランダであった。
(違うんだ……ミランダ姉さん……)
どうにか疑いを晴らそうともがくシクロ。
しかし警吏の男に押さえつけられ、締め上げられ――そのダメージとストレスのあまり、気を失うのであった。