05 真っ先にやるべきこと
「――挨拶の前に、言っておきたいことがあります」
シクロはギルドマスターに向けて言う。
「ほう、何かね」
ギルドマスターは、シクロが何をしようというのか、見定めるように目を細める。
「それは……」
シクロは言うと――後ろを振り返り、自分の後ろに隠れるように立っているアリスの手を引いて、一番前に引っ張り出した。
「――本っ当に、申し訳ありませんでしたッ!!」
そして深く、直角に親しいぐらい深く腰を折り、頭を下げた。
同時にアリスの頭を抑え、自分と同様に頭を下げさせる。
そんな突然のシクロの謝罪に、ギルドマスター、そしてこの場に残るサブギルドマスターがキョトンとする。
「ちょっ、お兄ちゃん!? こんなヤツに謝罪なんか……」
「するんだよッ! 誰よりお前が!! 一番深~くッ!!」
声を上げ、抵抗して頭をあげようとするアリスを、力付くで抑え込み続けるシクロ。
「ウチの妹がギルド爆破事件という形でご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんッ!! 賠償金でしたら支払いますし、主犯格であるアリスもこの通り、犯罪奴隷としてボクが管理して、二度と同じようなことはやらせませんので、どうか何卒!!」
「……あー、うん。なるほど。そういう話か、うん」
ようやく納得したという様子で、ギルドマスターは頷く。
「頭を上げてくれたまえ、シクロ君」
ギルドマスターは、呆れ混じりの声でシクロに頭を上げるよう促す。
「そもそも、アリスの起こした事件まで君が責任を負う必要は無い。養子とはいえ、彼女は私の娘なのだからね」
「ですが、こんなノータリンに妹を育ててしまった一因は自分でもありますし……」
「それを言うなら、それこそ親代わりとなった私に責任がある」
言うと、ギルドマスターは自嘲気味な笑みを浮かべて言葉を続ける。
「……S級冒険者ともなれば、驕り高ぶる者も多い。SSS級ともなれば尚更だ。にもかかわらず、人並みの常識を備え、こうして妹の不祥事に頭を下げるだけの器量もある。――アリスの言葉を真に受けて、見も知りもしない君のことを低く評価していた自分が、改めて馬鹿らしく思えるよ」
「ちょっと! 私のせいにしないで――むぐぅ」
「余計なことを言うな!」
ギルドマスターの言葉に反論しようとしたアリスの口を、シクロが塞ぐ。
「シクロ君。こうして顔を合わせて、初めて理解出来た。君は信用に値する一流の冒険者だ。できるなら、是非これからは仲良くしてもらいたい。ギルドの人間としても、アリスの親代わりとしても」
ギルドマスターは言って、シクロに向かって握手を求めて手を差し出す。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
シクロもギルドマスターに応え、手を握り返した。
そうして二人が握手を終えた後、気まずそうにするアリスに向けてシクロが言う。
「ほら、アリス。ちゃんと言うんだ」
「うっ……」
シクロに言われ、しぶしぶ、といった様子でアリスがモゴモゴしながらも言葉を発する。
「うう……えっと。ごめんなさい。迷惑をおかけしました。もうしません――お義父さん」
「――っ!」
アリスの言葉に、ギルドマスターは目を開く。
「……ああ、信じよう。私は君の『お義父さん』だからな」
言って、ギルドマスターはアリスの謝罪を受け入れる。
こうして無事、爆破事件については和解が成立するのであった。