03 初の車内泊
結局――昼食休憩の場でカリム、アリスのみならずミストにまで忠告を受け、シクロは大人しく、本当に多少ばかり大人しくフレスヴェルグに乗ることとなった。
他にトラブルらしいトラブルもなく、その日の旅程は無事終える。
日が沈み始めた段階で、街道を少し離れて野営――ではなく車内泊の準備を始める。
ファーヴニールにはシクロの時計感知と同等の感知能力があり、異常を検知すると車内に警報が鳴る仕組みとなっている。
その為、わざわざ車外へ見張りを立てる必要も無くなった。
実際にはシクロがずっと起きていることにはなるので、見張りの問題は小さいのだが。
それでも、より安全な空間で眠れるという認識はより良い休息に繋がる。
そうした理由もあり、四人はファーヴニールの車内にて、ミストが準備した夕食を頂きながら、リラックスした状態で今後の予定を話し合う。
「にしても、大分進んだんちゃうか?」
「そうだな。王都までなら、もう半分は過ぎたぐらいだと思うぞ」
「はぁ~、そりゃあホンマにとんでもないな」
ファーヴニールの想定以上の移動速度に、カリムが感心して声を漏らす。
「まあ、馬車とはそもそもの速度が違うしな。補給も休憩も必要無くて、速度も倍は余裕で出てる。明日の昼過ぎには王都に着くんじゃないか?」
「馬車やと4、5日は掛かるところが、一日半かぁ……」
しみじみと呟くカリム。
「そんなに早く到着して、問題は無いのでしょうか?」
ミストが素朴な疑問を浮かべる。
「ああ、早めに着くだろうから、その分先に用事を済ませようと思ってさ」
「用事、ですか?」
「ああ。――母さんと会って、話をしたり、さ」
シクロは懐かしむような声色で呟く。
「イッケーメン伯爵様のところで、住み込みの侍女として雇われてるはずだから。まずは会って、ボクが無事だってことをちゃんと伝えたいんだ」
「いつでも会えると思って、実家宛ての手紙以外の連絡手段も用意してなかったもんねぇ……」
シクロの言葉に、アリスが自分の迂闊さを反省するように呟く。
「まあ、伯爵様の領地は王都の隣だし。働いてるのが王都の屋敷か、領地の屋敷かも分からないぐらいだから、王都で会えるとも限らないんだけどな」
「そうだね。……っていうかお母さん、けっこう抜けてるとこあるし、案外お兄ちゃんが捕まったことだって気づいてないかも?」
「あぁ……ありえる。伯爵様のとこで働くのに夢中で気づかなかったとか、全然ありえる!」
シクロとアリスは、のほほんとしたマイペースな母のことを思い浮かべ、笑いあった。
「――まあ、それが無くたって色々会っておきたい人もいるし、謝っておきたい人もいる。冒険者ギルドのギルドマスターとかな?」
「うっ! そ、それは、そのぉ……」
「絶対に連れて行って頭下げさせるからな、アリス」
「はぁい……」
その後も和やかな雰囲気で話は進み――やがて眠気に誘われるがまま、全員が床に就く。
その際にシクロと誰が一緒に寝るか、でひと悶着あったのだが、ずっと起きている以上は運転席に居るとシクロが主張し、あっさりと解決するのであった。