02 竜と鷲
「――いやぁ、自動車っちゅーわけのわからんもんに乗せられた時はどうなるかと思ったけどなぁ」
と、ボヤキながらファーヴニールを運転するのはカリムであった。
運転席でハンドルを握り、シクロに言われた通りの安全運転を心がけ、街道を進んでいた。
「お兄ちゃんが作ったんだから、心配はしてなかったけどね? でも、さすがに私でも乗ったことが無かったから、ビックリしちゃったよね」
と、苦笑しながら計器類の確認でカリムの補助をする、助手席に座ったアリスが言う。
「でも、ご主人さまがファーヴニールを作ってくれたお陰で、こんな快適な旅が出来ているんですよ?」
と、二人に声を掛けるのは、後部座席――よりも更に後ろ。簡素にまとめられたキッチンルームのような空間で昼食の準備を行っているミストであった。
ファーヴニールは戦車が起源とはいえ、旅に必要な魔道具として設計されただけあり、移動する家のような機能が盛り込まれていた。
キッチンとして活用可能な各種魔道具設備はもちろんのこと。それらを収納し、空間を作ることで寝室としても場所を広く使えるようになっている。
天井にはスライドすると降りてくるロフトも付いており、上下に分かれることで車内に最大六人、座席も使えば八人が眠れる広さとなっている。
これだけの広さがあるにも関わらず、車体が『大きめの馬車』程度で済んでいるのは、内部空間を拡張する技術を使っている……とは、シクロの言葉。
何でも、シクロのスキルを応用して組み込んだ技術であるため、本来の自動車では逆立ちしても実装不可能な機能なのだとか。
しかし、それだけの便利アイテムを用意されていながら、カリムとアリスがどこか呆れ気味であるのには理由があった。
「けんどなぁ……あんなはっちゃけとる姿を見とったら、全部趣味なんちゃうか? って思ってまうわ」
言いながら、カリムは車外に視線を向ける。
そこには――。
「――ひゃっほおおおおうっ!!」
楽しそうに声を上げながら、自転車に似たモーター駆動の乗り物にのってファーブニールの周囲を走り回るシクロの姿があった。
――シクロが乗る二輪のモーター駆動の魔道具。これがファーヴニールと並行して開発した、何なら本命まであった二輪自動車。その名も『フレスヴェルグ』である。
ファーヴニールがパーティでの快適な旅に必要な車だとすれば、フレスヴェルグはより速く、より荒れた地形を走破するために設計された一人乗り専用の車であった。
最初は偵察目的で小回りの効く、自転車のような形で速い乗り物を、と考えただけであったのだが。
設計が進むうちに興が乗り――何よりも「これに乗って突っ走るのは絶対に楽しい」という直感が手伝ったのもあって、今の形に落ち着いた。
そして実際に乗ってみれば……このざまである。
約二名に呆れられながらも、縦横無尽に走り回ることをやめられない。
そして止められないからこそ、走りに刺激された魔物に――狼系統の足の速い魔物に追われる事となる。
「ハハハッ! そんなんじゃあ、ボクのフレスヴェルグは止まらないぜ!!」
ウッキウキのシクロは、後ろから追いかけてくる狼系統の魔物に向かって宣言すると――座席から飛び上がり、宙返りしながら瞬時にミストルテインを生成する。
空中で逆さになり、落下しながらの射撃。だが、既に桁外れのステータスを持つシクロには難しい技ではない。
全弾が正確に魔物の額を撃ち抜き、絶命させる。
そうしてシクロはフレスヴェルグに無事着地すると、ミストルテインを消す。
「――あぁ~、なんか、最高!」
約二名に呆れられそうな笑顔を零しながら、シクロはファーヴニールに少しばかり先行するような状態を続けるのであった。
バイクに乗りながら銃を撃つのはカッコいい(確信)
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