08 三者のすり合わせ
後日。魔王との約束の日がやってきた。
シクロの屋敷ではなく、今回はデイモスの屋敷の応接室に――シクロ、魔王、デイモスの三人が集まる。
「初めまして、魔王殿。ノースフォリア領主、デイモス=ノースフォリアです」
「ルストガルド帝国、皇帝をやらせてもらっている。悪いが、魔王は唯一の存在にして絶対の個である、という理屈で、他と区別するための名前を持たないんだ。代わりに気軽に魔王と呼んでくれてかまわない」
魔王とデイモスが握手を交わす。
「で、ボクが一応、ノースフォリアの英雄とか呼ばれてるシクロ=オーウェンだ。一応、子爵位を叙爵する予定でもある」
「よろしく頼むよ、シクロ君」
続いて、シクロと魔王が握手を交わす。
「――さて。早速ですが本題に入らせていただきたい。既に手紙でもある程度のすり合わせは済ませていますが、お互いの目的と、供与する利益について確認しましょう」
「そうだな」
デイモスが言うと、魔王が頷き応える。
「私からは、そちらに魔王スキルの根源たるダンジョン三つの攻略を求めている。そして、代わりにそちらの望む通りノースフォリア建国の際には後ろ盾となることを約束しよう」
魔王の言葉に頷き、続けてデイモスが口を開く。
「我々としては、先程もおっしゃっていた通り建国の後ろ盾となることを求めます。当然、その過程で必要な情報共有等の協力もお願いしたい」
「ああ、もちろん考慮済みだよ」
「でしたら、こちらもシクロ君をダンジョン攻略の戦力として一時的に供与することに問題はありません」
事前に手紙で決まっていたことではあるが、改めてこの場で、正式に魔王とノースフォリアが協力関係になると決定した。
「となれば、次は実際にどう動くのか決めて行こうか。そちらには、何かプランはあるのかい?」
「ええ、もちろん考えてあります」
魔王に問われ、デイモスが頷く。
「まず、シクロ君が正式に叙爵する為には王都に向かわねばなりません。私が叙爵したとはいえ、それを国に報告しなければ国内全域で有効とはなりませんので」
これについては、魔王と接触する以前から決まっていたことであった。
だがここから、魔王と関わったことにより変更された計画が話に上がる。
「そして王都で叙爵した後――シクロ君には帝国との停戦、あるいは和平条約を結ぶための使者として帝国に向かってもらいます」
「ほう?」
デイモスの提案に、魔王は面白そうに声を漏らす。
「なるほど、新しい英雄、シクロ=オーウェンという鬼札を見せつけ、帝国の動きを止める、という体裁か」
「はい。そこで五分の条件で停戦協定を結びましょう。これをシクロ=オーウェンの功績の一つとして、ノースフォリア建国の際の権威付けに使います」
「そして、魔王である私がノースフォリア建国の後ろ盾となる理由付けにもなる、か」
魔王と対等の停戦協定を結ぶ。それはハインブルグ王国にとっても大きな貸しとなる。
ノースフォリアの建国、独立に利用できる程に大きな貸しである。
「その後、帰国したシクロ君に『龍の巣』の攻略、西部の都市国家群への顔見せと根回し、『夜の国』のダンジョン攻略、といった手順で動いてもらいます」
「まあ、魔王スキルの消滅とノースフォリア建国の為の活動を並行するなら、その順路が理想的だろうね」
魔王は即座に、デイモスの意図するところを察し、言葉にした。
これにデイモスは頷き、補足する。
「もちろん、ハインブルグ王国、そしてスキル選定教の動きによって細かな部分では修正を余儀なくされるでしょうが、大まかにはこの手順で進んで構わないでしょう」
「――シクロ君は、この計画に無理は感じていないのかな?」
デイモスに問われ、シクロは頷く。
「これぐらいは問題ないよ。ダンジョンの攻略は、既にディープホールで経験済みだ。その時よりも効率的にやれるつもりでいる。それに、スキル選定教の弱体化を狙う以上、貴族にだってなってやるし、帝国でも夜の国でも行ってやる。――奴隷としてノースフォリアに飛ばされるよりは、よっぽど楽な旅路だろうしね」
冗談めかしつつ言ったシクロの言葉に、デイモスは苦笑いしつつも言葉を続ける。
「と、彼も言っているとおり。恐らくは計画の実行自体には問題は無いはずです。結局は、不確定要素として不安が残るのは――」
「スキル選定教。そしてハインブルグ王国の中枢を担う貴族、王族の動きか」
「ええ。彼らがどのような手札を持ち、どこで切ってくるか分からない以上、場当たり的な対応を迫られるのは間違いないでしょう」
難しい表情をしながら魔王が言うと、それにデイモスも頷いて肯定する。
「奴らは嫌がらせの名手揃いだからな。シクロ君にかなりの負担をかけることになるが――」
「問題ない。どうにかしてみせるさ、仲間と一緒に」
シクロが言うと、納得したように魔王は頷く。
「ふむ。創造神の太鼓判もあることだ。ここは君を信用することにしよう」
「そうしてくれ」
その後は、三人で叙爵まで、そして王都から帝国までの道のりについて詳細を話し合い、具体的な順路、手順を決定していった。
そうして、日は暮れていく。





