07 レオナの受け入れ
魔王とのひと悶着を、シクロはまずデイモスに報告する。
詳細はまだ決まっていないが、魔王と協力関係を結ぶこと。
そして、娘のレオナを預かることも報告した。
「……もう預かっているのかい?」
と、困惑しつつ訊くデイモスに、シクロは力なく頷くしか無かった。
ひとまずは依頼の一環でもあるため、レオナが菓子作りを学ぶ場を用意することから始めることとなった。
魔王との協力関係を築いておきながら、最初にやることがこれとはいかに。
シクロも、デイモスも疑問こそ抱いたが、やることはしっかりやった。
結果、ノースフォリアの富裕層向けの喫茶店での給仕係、という形で雇ってもらい、働きつつ菓子作りを教えてもらうこととなった。
この喫茶店は王都でパティシエとして働いていた経験のある壮年の男性が経営しており、高品質なお茶菓子が提供されることで有名となっている。
また、店主はデイモスとも既知の関係であり、多少の裏事情も話すことが出来る。
結果――レオナは帝国から亡命してきた魔族の一家の一人娘であり、安全の為にシクロ達が預かることとなった、という設定が決まった。
レオナが菓子職人を目指していること等は、嘘を使わず正直に話す。
「なるほど、事情は理解致しました」
喫茶店の店主は頷く。
「デイモス様の頼みでもあるならば、引き受けさせていただきましょう」
「有難うございます」
どうにかレオナの進路が決定し、安堵したシクロは店主に頭を下げて感謝する。
こうしてレオナが喫茶店の給仕係として働くことが決まった。
――魔族であるレオナの噂は、瞬く間に噂となった。
差別、迫害を受けないかと心配したシクロ達は何かと時間を見つけては見守りに向かった。
が、その心配は杞憂に終わる。
レオナが英雄シクロ達の預かる亡命魔族であることは既知の事実として知れ渡っており、その影響もあり好意的に受け入れられたのだ。
更には、ハインブルグ王国にはほぼ存在しない魔族も、西方の都市国家群にはそこかしこで見かける程度には存在する。
故に、敵国ルストガルド帝国の民とはいえ、種族単位で迫害するようなことは国際情勢的にも不可能。
よって、ハインブルグ王国は他種族に対して閉鎖的ではあるものの、邪教徒のような特殊なスキル持ちに対するような積極的な差別は行われていないのだ。
「――いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」
と、元気よく働くレオナを遠目に見守りつつ、シクロは息を吐く。
「これなら、とりあえずは大丈夫そうだな。となれば――」
言って、時計収納から一枚の手紙を取り出すシクロ。
それは、魔王とのやり取りを記した手紙の一つ。最も直近のものであり――かつ、近日中に行う、詳細を詰める為の顔合わせの日程が記されたものである。
「デイモスさんにも伝えにいかなきゃな」
言って、シクロは喫茶店を離れ、デイモスの屋敷の方へと向かっていった。
「――なるほど、分かった。この日の予定は押さえておこう」
デイモスに手紙を見せ、報告を済ませたシクロ。
「しかし……まさか魔王と直接対面して交渉する日が来るとはね」
「ボクも、こんなに早い展開になるとは思っていませんでしたよ」
レオナに仕事を斡旋し、見守りながら魔王と手紙のやり取りをする連日の出来事を思い返し、二人は息を吐く。
「――ん? また手紙?」
すると、シクロは窓越しに黒い鳥が手紙を咥えた状態で羽ばたき滞空しているのに気づく。
デイモスはそれに反応し、窓を開ける。すると黒い鳥はシクロの手元まで飛んでくる。
そのまま咥えていた手紙を離し、シクロに渡したのを確認すると、窓の外へと飛び去ってゆく。
「内容は……っ、クソッタレぇ……!」
手紙は、レオナの近況をもっと詳しく手紙に書いてくれ、という私信であった。
「ははは。魔王といえども、子の可愛さの前にはどこにでもいる父親と変わらないということかな」
「だとしても、この内容で何度も送りつけてくるのは流石に……」
ため息を吐くシクロ。実際、シクロなりにレオナの近況はしっかり報告してやっているのだが、それでも足りないらしい。
「まあ、いいじゃないか。子煩悩な魔王というのも」
「デイモスさん……手紙を書くのがボクだからって適当言ってませんか?」
「そんなことはないとも」
デイモスの恍けるような言葉の真偽を、シクロはひとまずこの場では求めないことにするのであった。





